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Ep.5-3

「ふぅ、やっぱ良いねぇ朝のお風呂は。そうは思わない? シャールちゃん」


「え、あ……はい!」


館の庭園を望む一角。ガラス窓から朝の光が降り注ぐ中、大理石張りの広い浴室の中でエリシアとシャールはそんな会話をしていた。立ち込める湯気に乱反射する光に目を細めながら、シャールはほうと息を吐いた。朝の訓練で疲れ切った全身をほぐし、汗を流す快感にシャールもエリシアも全身を脱力させる。

部屋一つ分くらいある湯殿は、エリオスの魔力によって排水や加熱が賄われている。これほどの規模の浴場は此処を除けば大国の王侯の城ぐらいにしかないだろう。

とはいえ、これは彼が自分自身のために作ったものではない。そして当然ながら、エリシアやシャールが朝風呂をきめるためのものでもあるはずがない。では誰のものか。彼がわざわざ労力をかける相手など一人しかいない。


「――アンタたち、私の至福の時間を邪魔するんじゃないわよ……」


湯殿反対側、窓ガラスにもたれるようにしながら濡れた青い髪を香油で整えつつアリアはそう言った。呆れたように眉間にしわを寄せる彼女にエリシアは快活に笑いながら視線を向ける。


「ええ、鍛錬でかいた汗を流すくらい許してよぉ。それとも、アリアちゃんはボクらが汗臭いまま館を歩いててもいいの? 何、そういう性癖?」


「ぶっ殺すわよアンタ!」


アリアはすらりと伸びた右脚で思い切り湯殿の水面を蹴り上げる。飛び散る湯の飛沫、エリシアはそれを気持ちよさそうに顔面から受けてからからと笑う。

シャールはそんな二人の様子を眺めながら、辟易としていた。


「あ、そうだシャールちゃん」


アリアと取っ組み合うようにしながら——もっとも、そう見えるだけで、実際にはひ弱なアリアが彼女にいなされているに過ぎないのだが——エリシアはくるりと紅潮した顔をシャールの方へと向けた。


「今日あたりさ、ちょっと一緒にお出かけしない? まあ、訓練の一環ではあるんだけど」


「へ? え、あ……はい」


「……アンタッ……それ、アイツに……伝えてあるんでしょう、ねッ?」


反射的に応じてしまったシャールを睨みながら、アリアはエリシアに抑えられた腕をじたばたさせつつ、そんなことを尋ねた。


「あ——そういえば、言ったなかったかなぁ」


呆けたような声でエリシアはそう言うと、軽く湯船の中でアリアの脚を払って彼女のバランスを崩す。「きゃあ」とらしくもない甲高い悲鳴を上げたアリアは、そのまま湯船の中に倒れ込む寸前に、身体を起こしたエリシアに抱きとめられた。


「——やっぱ、無断で……ってわけにはいかないよねぇ」


抱きかかえたアリアの顔を覗き込みながら、エリシアは悪戯っぽく笑った。


「良いわけあるかぁ!」


そう叫びながらアリアは微笑むエリシアの顔に向けて拳を突き出す。しかし、それはさらりと避けられて、逆にエリシアはアリアを抱きかかえていた手をぱっと離した。その瞬間、アリアの身体はお湯の中へと音を立てて沈み込んだ。


「さてと、じゃあ朝食の時間にでもエリオス君には話しておくとしようか」


「あ、はい」


ばしゃばしゃと湯殿の中でもがくアリアを他所に、エリシアは立ち上がると、湯から上がってシャールにウインクする。シャールはそれに従うように、彼女の後を小走りについていく。


「はあ……はあ……」


二人が浴場から出た後に、息も絶え絶えに髪を乱しながらアリアは湯から顔を出す。そして、出口を睨みながら嘆くような声を上げる。


「返してよぅ……私の至福のお風呂タイム……」

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