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Ep.5-2

「たぁぁ!」


甲高い声が朝の森に響いた。その次の瞬間には、金属と金属がぶつかり合う音が、朝の空気を切り裂く。

エリオスの館がある森の中で、シャールは聖剣アメルタートを握りしめて、ひたすらにそれを振るう。

相手を務めているのは、アヴェスト聖教国からやってきて、しれっとエリオスの屋敷に居付くことになった「勇者」エリシア・パーゼウス。

エリシアが、エリオスの館に住み着いてからはや一週間。彼女がやってきた次の日から始まったこの朝の鍛錬は、シャールにとってもう既に日課になりつつあった。


「そこ——!」


「ううん、残念!」


シャールが突き出した剣を、エリシアは何ということも無さげに避け、打ちはらう。それでもシャールは何度も諦めずに剣を振るう。その剣は次第にエリシアに迫っていく。

重厚に見えるアメルタート。そんな見た目の割にシャールが簡単に振るい続けられるのは、それが聖剣の権能の一端だからなのだという。

エリシア曰く、聖剣は自分が認めた持ち主の肉体を強化して、その人物が全力を出せる状況をお膳立てしてくれるそうなのだ。

『聖剣だって自分が認めた人間が、筋力不足で自分を使いこなせないとかなったらイヤなんじゃない?』

エリシアはそんな風に軽く言っていたが、本当のところはよく分からない。

とはいえ、剣を振るうためにまず筋力を強化するというステップを一足飛びに出来たのはシャールとしては有り難かった。それだけ早く、魔王退治に協力ができるから。そして、それだけ早くエリオスとの戦いに臨めるから。

とはいえ、剣を振るえるというのはあくまでスタートラインに過ぎない。実戦のために、シャールには圧倒的に技術と経験が足りていなかった。


「はぁ!」


「惜しい惜しい」


繰り返し繰り返し、エリシアに向かって全力を叩き込むが、それは全て躱されるか、彼女の剣で軽くいなされてしまうので、彼女に届くことはない。


「——ッ! これで!」


思い切り踏み込み、全力で振り抜いた一撃。渾身の一撃だった。しかし、


「よし、じゃあ今朝はここまでにしよっか」


そんなエリシアの言葉と共に、彼女の一撃は聖剣ごと叩き落とされる。シャールは自分が何をされたのか、理解が追いつかなかった。数瞬遅れて、自分の剣が吹き飛ばされていることを理解したのだ。


「シャールちゃんは良い子だからね、剣がとっても真っ直ぐだ。でも、戦いにおいてその真っ直ぐさは常にいい結果をもたらすとは限らないものなのが辛いところだ」


そう言いながらエリシアは吹き飛ばされて地面に転がったアメルタートを拾い上げると、その若草色の刀身に目を細める。


「ボクらがこれから身を投じるのは決闘場みたいなお行儀のいいトコロじゃない。血生臭くて、人間臭い戦場だ。相手は君よりもずっと鍛錬を重ねてきた戦士で、お互いに命を賭けている。そこでは、搦手も卑怯な策も何でもありだ。生き残った者、勝った者こそが正しいという価値観(セカイ)


そう語りながら、エリシアの表情はどこか寂しそうで苦しそうだった。シャールはそんな彼女を心配そうに見つめる。そんな彼女の視線の理由に気づいてか、エリシアはゆるゆるとかぶりを振って笑った。


「説教臭くなってしまったね。ごめんごめん。結局何が言いたいかと言えば、正面から打ち込んでくる以外の搦手もガンガン使っておいでってことさ。君は剣を振り始めたばかりなんだから、ちょっとズルするくらいがちょうどいいのさ」


そう言ってエリシアは、シャールの頭を優しく撫でながら微笑んだ。

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