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Ep.5-1

とんでもない時間の投稿になりましたがお許しを

馬を駆りながら彼女は森を走る道を駆け抜ける。黒々とした森を抜けると、目の前には点在する沼地と、青々とした草原が広がっていた。湖水地方、とでも言うのだろうか。綺羅星の光と青い夜の光を受けたその光景は、まるで幻想的な絵画の一部を切り取ったようで、思わず彼女は息を漏らした。

しかし、すぐに正体を取り戻して、彼女は当たりを見渡した。

頼りになるのは脳内の地図と夜空の星々だけ。北を示す星と、その左手側に聳える山影とその麓の森を見て彼女は進むべき方角を定める。

手綱を引いて、停止していた馬を走らせ肥沃な大地を駆け抜ける。

すると、遥か遠くに小さく点のような赤い光が幾つか見えて来た。彼女は自分の脳内地図に誤りがなかったことに安堵して、馬を更に速く走らせる。


「——村の明かりにしては……少し剣呑だな」


村が近づくにつれて、その全容が明らかになっていく。遠くから見えていた赤い光は日々の営みに供するような温かく穏やかなものではなく、煌々と夜の闇を切り裂くように、睨みつけるように照らす篝火だった。村の周りは簡素な堀と、尖った丸太の杭を幾重にも並べた防壁のようなもの。篝火に照らされた杭の先端は、まるで敵を前にして吠え立てる獣が牙を剥き出しているようだった。

村の門と思しきところには、2人の男が槍を片手に眠そうな顔で立っていた。しかし、彼らは馬を駆り近づいてくる彼女の姿を認めると、表情を硬らせて槍を構えた。


「と、止まれ! 止まれェ!」


うわずった声で叫ぶ門番たちを無視して、彼女は速度を緩めずに接近する。自分たちの求めに彼女が応じないことを理解すると、門番たちは震える手で槍の穂先を前方へと傾ける。彼女は自分に向けられた槍の穂先を見て、苦笑を漏らした。その刃がガラス質の黒い石を削って作られたものだったからだ。


「石器って——そんなの現役で使ってるなんて……」


外敵という者の脅威をなめているのか、門番に鉄器すら支給できないほど、この村は困窮しているのか、彼女には判別がつかなかった。おそらく後者なのだろうが、彼女が前者の選択肢を捨て切れないほどに目の前の門番たちはあまりにも貧弱だった。体格が、ではない。敵を前にして、槍という有利な武器を持ちながら、それを握る手にあまりに力がなかったから。

それでも、あの鋭利な穂先は自分を運ぶ馬に刺されば重傷にもなりかねない。彼女は小さくため息を漏らしながら、手綱を強く引き馬の走る進路を変える。

それを見た門番たちの顔にほんのわずかな安堵の色が浮かんだのとほぼ同時、彼女は馬の背から飛び降りて門番たちの前に降り立つ。


「く、くそがぁぁぁ!」


2人の門番は震えて締まりのない雄叫びを上げながら槍の穂先を彼女に突き立てようとする。しかし——


「遅いよ。それじゃあボクを殺せない」


彼女がそう言って薄く笑った瞬間、2人の槍の穂先が音もなく切り落とされた。地面に転がる槍だったものを見て門番の二人は絶句し、その場に崩れ落ちる。

命乞いを口にしようとしているのか、二人はぱくぱくと口を動かしているが、呂律が回っておらず何も聞こえない。そんな二人を見下ろしながら、彼女は苦笑する。

彼女は篝火よりも赤く輝く剣を、腰に戻しながら二人に告げる。


「そんなに怯えないでよ。ボク、こう見えて良い人だからさ」


赤く流れる髪を揺らしながら彼女は笑った。

今日は数時間空けてもう一話投稿しますので、どうぞよろしくお願いします。

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