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Intld.Ⅲ-xxi

「だから私は聖教会を作り替える。より健全な組織として。そのために、私は今の聖教会を私のこの手で解体しようと考えているのです」


ユーラリアの言葉にレイチェルは絶句する。突然の告白、途方もない妄言。何を馬鹿なことを、出来るはずがない——そんな言葉が口から溢れかける。しかし、レイチェルは目の前の自分の主人の顔を見てその言葉を飲み込む。自分よりも幼いのに、自分よりも矮小でひ弱な身体なのに。戦場に立つ戦士たちよりも遥かに強い眼差しが、レイチェルを貫いていた。

ただ「神の声が聞こえる」と言うだけで、こんな重荷を背負わされ、心の底からの自由すらも与えられない境遇にありながら。正義と法と救いの殿堂などと気取りながら、人の罪と醜さを凝縮させたような坩堝のごとき匣の中にありながら。彼女はなおも、前を向いている。誰もが当然のことと諦めて、必要なことと嘯いて、見て見ぬ振りすらかなぐり捨てて礼賛すらする理不尽を前にして、それでもなお「もっと善いモノを」と手を伸ばし続ける彼女。

レイチェルの目にはそんな彼女がひどく美しく、そして恐ろしいものに見えた。

ユーラリアはレイチェルの瞳を見つめながらさらに言葉を続ける。


「これが難しいことは分かっています。反対する者はもはや統制局長麾下の者たちに留まることはない。きっと私の足元からすら、反対の声は上がるでしょう。でも、私はこうも思うのです——組織の区別なく反対の声が上がるなら、その逆も然りなのではないかと」


「つまり、猊下はもはや祭儀神託官も教義聖典官も、区別なく御身のお考えに賛同する者を味方につける、と?」


「その通りです。今、各組織において私と同じような考えを持つ者がいれば、その者は組織から追われるか酷い冷遇を受けるでしょう、『裏切り者』として。彼らはただ、聖教会という組織のあり方について、一つの考え方を抱いたに過ぎないのに」


レイチェルはそんなユーラリアの言葉に歯を噛みしめた。実際に、そんな扱いを受けた人間をレイチェルは何人も知っている。そんな空気が充満しているから、この国は、この組織は自由な議論などがなされることがなくトップの意思が全てを動かしていくのだ。

こんな空気の中にあって、自由に議論して許されているのはきっと神学者にして異端審問局訴追騎士団長という異色の肩書きを持つザロアスタくらいのものだろう。聖教会の神官たちをして、狂信者とまで言わしめ、立場など関係なくただ神の教えという真理の追求のみを尊ぶ彼だからこそ——


「あ——」


そこまで考えて、レイチェルはようやくユーラリアの意図を理解した。何故彼女があそこまで自分の本音をザロアスタに開示していたのか。何故、彼の記憶に手を加えることも口止めすることもなく帰したのかを。


「——貴女は、そのために……ザロアスタ卿を、教義聖典官の一員である彼を引き込むために……あんな賭けを……?」


震えるレイチェルの唇から紡がれた言葉。ユーラリアはそれを聞いてにんまりと笑った。

最近1話千文字前後って結構少ないな、などと書きながら思いつつ話をまとめてます。一時の気分でハードル上げると後で自分の首が絞まるので……

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