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Intld.Ⅲ-xiv

「——だから、私のとっておきの駒を使ったのです」


そう口にすると、ユーラリアは悪戯っぽく微笑んで見せた。聖浄でありながらも強かさを感じさせるような笑顔だった。


「それが、エリシアだったのですね」


レイチェルが確かめるようにそう言うと、ユーラリアは軽く頷いてみせる。


「彼女は聖教会の正式な構成員ではありませんからね……レブランクへの遠征も行った貴女たちに同行させるわけにはいかなかった。でも、非公式な荒事に駆り出すにはちょうどいい人材」


「——猊下はやはり我々がエリオス・カルヴェリウスに敗北すると予想されていたのでしょうか?」


どこか伏し目がちにレイチェルはそう問いかける。落ち着いているけれど、どこか沈んだような声だった。そんな彼女の悲しげな表情に、ユーラリアは困ったような表情で笑う。


「そうね、厳しい戦いになるとは思っていました。特に、もし貴女が単独でエリオス・カルヴェリウスを相手にするような状況になったら……なんてことを思うと、やはり手を打たずにはいられなかった。だって、私の命もかかってますからね」


そう言ってユーラリアは自嘲的な笑みを浮かべながら、肩を竦めてみせた。


「だから、聖剣使いである彼女を私は派遣した。聖剣が2本揃えば、彼を打倒するまではいかずとも、牽制くらいにはなると考えたのです」


そう続けると、ユーラリアは茶目っ気たっぷりに舌をちらと出して笑って見せた。


「貴女たちからレブランクの騒乱平定の伝令が来たタイミング。教義聖典官の面々が、今回の遠征で得られた利益に心を奪われていたタイミングで私は一つ策を打ちました」


そう言ってユーラリアは手元の報告書をぺらぺらとめくり始める。そして、彼女が開いたのは北方の魔王軍侵攻についてのページ。ユーラリアはその中の地図を指さした。


「ところで二人とも。今回の魔王軍の進軍、今までの小競り合いとは一味違ったような気がしませんでした?」


「え? それは……」


「それは、魔王軍がパルシー街道に布陣しようとしていたことですかな?」


ザロアスタはユーラリアの問いかけにさらりとそう答えた。そんな彼の答えに、ユーラリアは「正解です」と言って嬉しそうに笑った。

パルシー街道というのは大陸を南北に走る大きな街道だ。国内においては、その街道沿いにアヴェスト聖教国の政府機関や大神殿などの首都機能が集中している。

つまり、魔王軍がパルシー街道に布陣するということは、彼らが一気に街道を駆け上った場合、一瞬で聖教国の首都が落とせてしまう可能性があるということ——即ち、聖教国の危急存亡の事態に繋がりかねない出来事であったということなのだ。

これは、ここ最近の魔王軍との小競り合いとは一線を画す危機的な出来事だった。


「そう、でしたね。幸い彼らの布陣が完了する前に掃討することが出来ましたが……」


レイチェルは、ユーラリアが指さした地図を見下ろしながらそう呟いた。そんな彼女の言葉にザロアスタも深く頷きながら続ける。


「然り。街道を守護する北方の大砦による監視を如何にして潜り抜けたのかは気になるところだが、それはそれとして街道を駆け上られる前にケリがついて良かった。尤も、今頃北の大砦の責任者は統制局長閣下から大目玉を食らっているだろうが……」


「あら、それは悪いことをしてしまいましたね」


不意に響いたユーラリアの言葉にレイチェルとザロアスタは顔を上げる。その表情には彼女が何を言ったのか、理解できていない、受け入れられていない様がありありと浮かんでいた。

そんな二人をどこか楽しげに見つめながら、ふとユーラリアはザロアスタを見遣る。


「ザロアスタ卿? ここから先の私が話すことは、完全にここだけの秘密にしてくださいますか?」


「え、あ……ええ、それは。もちろん、神に誓って」


「ふふ、ありがとう。貴方がそれを口にするのなら、間違いないでしょうね」


困惑しながらも発せられたザロアスタの答えに、ユーラリアは嬉しそうに笑った。

しかし、そんな彼女の横でレイチェルはまるで心臓を握り締められているような苦しげな表情をしながら問いかける。


「げ、猊下……あの、その言いようではまるで……」


「ええ。北方の大砦が魔王軍を感知できず魔王軍がパルシー街道に手を伸ばしたという今回の事態。それをお膳立てしたのは私です」

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