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Intld.Ⅲ-xiii

「つまり……統制局長閣下は、私を殺そうとしていたのですか……? 猊下を陥れるための下準備として」


「その可能性は十分にある、とだけ言っておきましょうか」


そう言ってユーラリアはちらとザロアスタの方を見る。ザロアスタはそんな彼女の視線を察すると目を閉じて腕を組んだ。

そんなザロアスタの反応に苦笑を漏らしながら、ユーラリアは話を続ける。


「最高巫司として先代から受け継いでもう5年は経ちますけれど……少し派手に立ち回りすぎたきらいはありますからね。ちょっとやり過ぎちゃったかも」


「そのようなことは……! 猊下は聖教会を正しいカタチに立て直そうと、ずっと頑張って……!」


「ありがとう、レイチェル。でも、やっぱり急激な変化は痛みを伴うものだから。そして、その痛みは反発を生み、私に返ってくる。これは善悪や正誤の話じゃなくて、当然の道理。この場所に立ったばかりの私はその理解が足りていなかったのです」


少し寂しそうな表情でそう口にしたユーラリアを、レイチェルは口惜しそうな表情で見つめていた。

そんなレイチェルに微笑みかけながら、ユーラリアは続ける。


「かつて、当時の統制局長により異端宣告・破門の上処刑された最高巫司がいました。歴史を紐解くと、彼女もまた教会の改革を目指していましたが、最側近であった神殿騎士団長が戦死した直後に、そのような末路を辿ったそうです。きっと、今の統制局長はその悲劇の再演を狙っているのではないでしょうか」


紅茶を啜りながらユーラリアは呟くようにそう言った。自分の立場だけでなく命さえも脅かされている計画について語っていると言うのに、彼女の表情はひどく穏やかで、泰然としていた。


「魔王軍のことを考えれば、今この段階で聖教国の最高戦力である貴女をみすみす死なせるのは悪手としか思えませんけど……まあ、統制局長からすれば貴女の死後シャスールさえ確保して新たな聖剣使いを選定すればいいと考えているのでしょうね。まあ、間違いではありませんけど」


「それでもやはりリスクはある。でも、統制局長閣下は、そのリスクを押してでも私と猊下を排除したいと考えているのでしょうか……」


「あの方は用心深いですけど、それでいて決断は早いですからね」


くすくすと笑うユーラリアに、レイチェルは深くため息を吐いた。自分に迫っている危機に実感が無いのか、或いは取るに足りないとでも思っているのか。ユーラリアの嫋やかな表情を見ると、レイチェルは彼女が何を考えているのか不意に分からなくなってしまう。

そんな中、ザロアスタが問いかける。


「一つ、問いたいのだが。統制局長閣下は、我輩のことも亡き者にしようとしていたのだろうか?」


自分の直属の上司に、嵌められるような形で死地に追いやられたのだとすれば、いくらザロアスタであっても心情穏やかではいられまい。彼の表情は穏やかだったが、声の端々に刺々しさが滲み出ていた。

そんな彼にユーラリアはくすりと笑って言った。


「それは無いと思いますよ、ザロアスタ卿。統制局長としては貴方の生き死にについてはそこまで執心していないように見えます。多分貴方が選ばれたのは、教義聖典官の誰もが嫌がりそうな祭儀神託官との合同遠征も嫌がらないだろうと判断されたからじゃないでしょうか」


そんなユーラリアの言葉にザロアスタは「そうかそうか」と満足そうに頷いて、また腕を組んで目を閉じた。


「まあ、それだけでは無いかもしれませんが……」


ユーラリアはザロアスタには聞こえないような声でぽつりとそう零した。レイチェルはそれを聞き逃さなかったが、敢えてそれを問うことをせずに目を伏せる。


「と、まあそんな統制局長の目論みをなんとはなしに察していた私は、自分の命を守るためにも貴女たちを死なせるわけには行かなかった。だから、私のとっておきの駒を使ったのです」


そう言ってユーラリアは笑った。

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