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Intld.Ⅲ-xii

「まさか——彼がそんな愚か者なら、私がこんなに難儀することなんて無かったでしょうね」


そう言ってユーラリアはゆるゆると首を横に振って皮肉っぽく笑う。そしてちらとレイチェルを見やる。


「彼だって、レブランクを滅ぼすような存在を簡単に手中に収められると思うほど楽観的な人間じゃない。むしろ彼はひどく用心深い。だからこそ連名での勅令を出しておきながら、自分の勅令旗を持ち出すことはしなかった。体裁として、あくまで私たちが主体となっているものだという前提を崩さなかった。あの無茶な要求だって正規のルートではなく、非公式なモノだった。本当にひきょ……もとい、用心深い方です」


咳ばらいをして、口を突いて出かかった言葉を飲み込み、言いなおすユーラリア。そんな彼女に、レイチェルは眉根を顰める。


「では、何故統制局長閣下はあのような要求を……」


「――それは、貴女が理由だと私は考えています。レイチェル」


そう言って、ユーラリアはすっとその手をレイチェルに向ける。レイチェルは突然自分の名前が話の中に現れたことに動揺し、彼女が何を言わんとしているのかを理解できずに困惑の色をありありとその表情に浮かべる。そんな彼女に、ユーラリアは告げる。


「レイチェル、私の騎士様。貴女は私にとって最高の従者よ」


「――え、は? と、突然何を……?」


「私が今こんな陰謀渦巻く教会組織で最高巫司なんて大任を務めていられるのも、貴女の献身のおかげ。貴女が私の側にいてくれるから、私はこうしていられるの。貴女無しでは私は生きていけない」


「猊下!?」


突然のユーラリアからの甘い言葉。今まで長い間仕えてきた中でも耳にしたことの無いような、とろけるような言葉にレイチェルは赤面し取り乱す。しかし、不意にレイチェルは彼女の言葉の意味を理解して、全身をぞくりと震わせた。


「まさか……」


「ええ。言った通り、今の私はきっと()()()()()()()()()()()()()。これは比喩でも誇張でもなく、紛れもない事実——もし貴女がいなくなれば、私は自分を守る手段を失い、すぐにでも失脚させられる風前の灯火と成り果てる」


そう言いながらユーラリアは目を細める。その瞳の光は、これまでの彼女には見られない揺らぎを帯びていた。


「レイチェル。貴女は今現在の聖教会においては間違いなく最高の戦力です。そんな貴女が神殿騎士団長として私についている限り、統制局長たちは迂闊に私を陥れることは出来ない」


神殿騎士団。祭儀神託官という最高巫司直轄の組織において、数少ない実行部隊の一つ。

表向きには、神の代理人である最高巫司の直接の指揮によって動かせる戦力であり、教義聖典官での手続きによることなく即座に神の意思を執行することを第一の存在意義とし、副次的に最高巫司の警護も担っている。

だが、本当の存在意義は別にある。それは、教義聖典官への牽制。

政治的実力において、最高巫司を遥かに上回る統制局長をはじめとした教義聖典官の海千山千の怪物たち。彼らの手で最高巫司が玩弄されてしまうことがないように。蔑ろにされることのないように、拮抗状態を作るための装置が神殿騎士。

レイチェルはここに至ってようやく、ユーラリアが何を考えているのか。統制局長の意図が何だったのかを理解する。そして唇を震わせながら問うた。


「つまり……統制局長閣下は、私を殺そうとしていたのですか……? 猊下を陥れるための下準備として」

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