Intld.Ⅲ-ⅷ
「隙……ですか」
ザロアスタは首を捻りながらも、ユーラリアの言わんとすることは理解したようで、低く唸りながらも頷いて見せる。そんなザロアスタの複雑そうな反応にユーラリアは思わず苦笑を漏らした。
「尤も、私は直接彼と言葉を交わしたわけでもないし、彼の姿を見たことすらない。あくまで推測、思考実験の域を出ません。何より、我々が彼とぶつかり合う時が来るかも分かりませんし」
そう言ってユーラリアはゆるゆると首を横に振って、ティーカップに手を伸ばした。そんな彼女の言葉に、レイチェルはどこか気まずそうな表情を浮かべる。僅かな逡巡。しかしレイチェルはかぶりを振って、居住まいを正してユーラリアに向き直る。
「あの、猊下——」
「何かしら、レイチェル?」
「——ッ! わ、私は一つ猊下にお詫びせねばならないことが……」
おっかなびっくりにそう告げるレイチェルを、ユーラリアはニコニコとした表情のまま見つめている。そんな彼女の変わらない表情に逆に恐ろしさすら感じるレイチェル。
しかし、彼女に隠しごとなど出来ない。何より自分はそれが正しいと信じたのだから。レイチェルは意を決して告げる。
「エリオス・カルヴェリウス、私は彼を倒すために戦うと約束してしまいました」
「——へぇ、そうなのですか」
ユーラリアの目がきらりと輝いた。彼女は口に出してその先について報告することを求めなかったが、レイチェルは何かに駆り立てられるように報告を続ける。
「エリオス・カルヴェリウスの屋敷にいる少女、シャール・ホーソーンに約束したのです。魔王の討伐が完了した暁には、彼を倒すという彼女の目的に力を貸すと。勝手なこととは分かっておりますが、しかし私は——」
「レイチェル」
焦るように言葉を紡ぐレイチェルをユーラリアはその名を短く呼んで止めた。
「レイチェル、聞きたいことは色々とあります。例えばエリオス・カルヴェリウスとの接触の経緯、シャール・ホーソーンなる少女、どうして貴女がそんな約束を結んだのか。今の私にはどれ一つとして分かりません」
「あ……申し訳ありません」
「だから、落ち着いて。順々に話して欲しいの。でも、今の貴女は私に断りを入れずに約束をしてしまったことが気にかかってしょうがないようだから、先に言っておきましょう」
ユーラリアは泰然とした様子で、レイチェルに向かって微笑みながら告げる。
「エリオス・カルヴェリウス。彼は多くの人を虐殺し、人心を弄んだ大罪人です。私はそれを放免するつもりは微塵もありません——彼と言う悪、彼の犯した罪は清算されねばならない」
「え——」
「魔王討伐への彼の従軍の要請。これは人類側の戦力の増強という意味だけではない。これは彼の贖罪と更生のための旅路でもあるのです」
ユーラリアは目を細めながら遠くの空を見遣る。その眼差し、その声は、優しいようでいてどこか冷たさを帯びた冬の大地のようだった。
そんな彼女の瞳にレイチェルはその身をぞくりと震えさせるモノを感じた。
ユーラリアは冷然と続ける。
「もしこの旅路を経てもなお彼がその在り方を改めず、罪を悔いることがないのなら、私は私の持てる全権限、全能力を用いて——神の名の下に彼を裁きます」
FGOの階位認定試験、祭位をいただきました。




