Intld.Ⅲ-vi
「——エリオス・カルヴェリウス。レブランクを滅ぼしたという彼について聞かせてくださいな」
ユーラリアは机の上に肘を置いて、身を乗り出すようにして二人の騎士にそう言った。
そんな彼女の姿勢に、表情を曇らせながらもレイチェルは話し始める。
「エリオス・カルヴェリウス——彼がレブランクを滅ぼしたやり口は、先に帰参させた分隊の報告通りです。国王や宮廷貴族と、一般市民の間で一気に対立を煽り内乱——あるいは革命というべきなのでしょうか——を勃発させました」
「その手管は見事、と言うべきですな。よくある王侯貴族の欲深さや自己保身という性質と、市民の衆愚性。そして怒りや憎悪の最も膨れ上がった瞬間を見極めたように、それを破裂させた」
レイチェルとザロアスタはそれぞれの所感を口にする。そんな二人の言葉に、ユーラリアは眉根を寄せながら少し考え込む。
「見事な手管。ある意味芸術的なまでにかっちりとハマったような謀略ですね。でも、そこに違和感を覚えるのは私だけでしょうか?」
「と、申しますと? 何か我々に見えていないことがあるのでしょうか?」
「いえ、そういう意味ではありません。ただ、この謀略から見えるエリオス・カルヴェリウスという人間の性質について。単なる謀略家、悪巧みに優れた者というだけではないモノが見える気がして」
かく言うユーラリアも未だにその「違和感」に確信を持ちきれていないようで、その言葉はどこか薄氷を履むよう。脳内に浮かび上がる思考と言葉、その一つ一つを確かめ、咀嚼し、反芻しているように見えた。
「彼が生み出した惨状とそこに至る過程。それは、本当に機械的なほどに上手く噛み合って思いつく限り最悪の結果を導き出しました。ですが、その過程がいかに完璧に見えても、その始点である策謀自体は私には不完全に見えます」
「——それは……! 確かに、そうかもしれません」
レイチェルはユーラリアの言葉の意味に気づいたようで、彼女の言葉に大きく頷いて首肯する。そんなレイチェルの賛同に勢いづいたように、ユーラリアはさらに続ける。
「彼の策謀は一つの鍵となる要素によって、その結果が大きく変わります。今回のように完全な成功を収めるかもしれないし、或いは全てが瓦解するかもしれない——その要素は、彼の手でどうにかなるものではなく、完全な変数……単なるギャンブラーだったならいざ知らず、彼はもしかしたら確信を持って……」
もはや会話という体裁を成立させる意思すら感じさせないほどに、ユーラリアは口早に自身の思考を捲し立てる。いや、むしろ口に出しながらその考えを構築しているようにもみえた。
そんな彼女に眉間に皺を寄せたザロアスタが問いかける。
「——分かりませんな。その鍵たる要素というのは……」
そんな彼の言葉にぴくりとユーラリアは全身を硬直させる。そしてゆっくりと彼に向き直りながら、慎重に言葉を選ぶように口を開く。
「彼の計画の鍵——その成否を大きく左右する外部的要因、私はそれが人間の悪性であると考えています」




