Intld.Ⅲ-ⅲ
ちょっと地の文多めです
「レブランクにおける収穫は三つ。一つは、何よりも聖教国と双璧を成していた大陸の覇者が消えたことでしょう」
アヴェスト聖教国自体は、軍事力という点においてはレブランク王国には及ばない。
しかし、その頂点に「最高巫司」という神にも等しい絶対的権威が存在し、有事の際には大陸の大多数の国家から兵力を動員できるからこそ、聖教国はレブランクとなんとか拮抗することができていた。
しかし、その拮抗状態故にレブランクとその属国となっている国々においては官民ともども聖教会の影響力が及びづらい状態が長く続いていた。
特にマラカルド3世が即位してからは、その野心的な性格故に教会勢力との対立が深まり、「大陸における宗教秩序の維持」「教会による一元的な聖遺物管理」という聖教会の至上命題的政策が滞る原因となっていた。
そんな状況を最も象徴するような出来事が、レブランク王国による「聖剣の勇者」の任命だった。
有象無象の国々が各自に任命する勇者は、どこまで行っても自称の肩書きに過ぎず、聖教会にとってもさしたる意味を持たない。
しかし、「聖剣使い」である「勇者」という存在は、そんな「自称勇者」とは重みが異なる。
聖剣使いの勇者は、アヴェスト神話群における原初の勇者・エイデスと同等の立場にある、言ってしまえば神話的存在だ。
それゆえに、長いアヴェスト聖教の歴史の中でも聖剣使いの勇者を任命するのは聖教国の役割であり、それ以外の国が任命しようとする場合には慣習的に、聖教国の最高巫司と統制局長による連名の勅許が必要であるとされていた。
しかし、マラカルド王はそんな慣習を無視して、自身の息子に独断でレブランクが保有する聖剣アメルタートを与え、「勇者」を名乗らせた。
これは、聖教国から見れば自身の権威に対するレブランクからの挑戦に他ならず、その権威の絶対性を脅かす出来事だった。
「——レブランクの崩壊は悲しいことだけれど、彼の国の力が削がれたのは、聖教会としてはいいこと……なのよね」
ユーラリアは伏し目がちにそう言った。そんな彼女に、ザロアスが告げる。
「如何にも。レブランクはもはや神敵と成り果てつつあった——エリオス・カルヴェリウスによる蹂躙が原因というのは癪ですが、これもまた神の御意志ではないかと我輩は愚考いたします」
「統制局長はこの件についてなんと仰っていましたか?」
ザロアスタの言葉に一瞬眉を顰めながらも、ユーラリアはすぐに穏やかな表情を取り戻して、ザロアスタに問う。
「お喜びでしたぞ。暫定措置ではあるが此度の一件で、レブランクの国土の8割は我らが聖教国が統治権を有する運びとなりましたからな。内戦処理や戦犯の処断で忙しくなるとも仰っていましたな」
「そうですか——とはいえ、罪があるのは権勢に酔いしれ、神とその律をも忘れた中央の王侯貴族たちです。それに翻弄された民草や地方貴族たちには何卒寛大なご処置をとお伝えください」
「承知いたしました」
ザロアスタは深く頭を下げて彼女の言葉を拝命する。そんな彼を複雑そうな表情で見つめながら、ユーラリアは改めてレイチェルの方へと向き直る。
「それで、二つ目の収穫は?」




