Ep.4-81
「——そんなわけで、レイチェル卿たちは聖教国に帰っていったはず……だよね?」
広間の玉座に座りながら、エリオスは呟くように、零すようにそう言った。その表情は一見すると笑っているが、その実強張っていて、口の端はひくひくと震えている。
玉座の肘掛けに腰をかけたアリアも顔をひくつかせ、絶句していた。
広間の中央に立ったシャールは、苦笑を漏らしながらそんな彼らから注がれる視線を避けるように、窓の方へと視線を逸らす。
「じゃあさ、なんで……!」
震える声で、見た目通りの少年らしい動揺した声でエリオスは叫ぶ。
「エリシア、なんで君まだいるわけ!?」
エリオスの揺れる瞳の見つめる先、広間でシャールの横に立っていたのは、飄々とした笑みを浮かべる勇者、エリシアだった。
「君、聖教会の人間でしょ!? なんでレイチェル卿たちと帰ってないのさ!? ていうか、帰ってよ!」
「ひどいなぁ、エリオス君。そんなにボクのコト嫌いなのぉ? ボク、なんかしたかなぁ?」
わざとらしく傷ついた風を装って、エリシアは間延びした悲しげな声をあげてみせる。
「人の首に聖剣押し当てるようなマネをしておいて何言ってるのかなぁ! ていうか、魔王軍の侵攻が云々とか言ってたじゃないか! アレはどうなったのさ!」
叫ぶエリオス。彼の表情は本気で焦っているように見えた。そんな彼に舐るような視線を向けながら、エリシアは飄々と笑う。
「ああ、あの件で招集されたのは聖教国の正規軍だけだからね。ボク、正規軍じゃないし。あと、聖剣ヴァイストに選ばれた勇者——つまりボクの存在はまだ公表はされていないから。むしろ従軍するワケには行かないんだよね」
「〜〜ッ!!」
「それに、対魔王の戦争に従軍するまでの間の君の素行調査も出来るし、聖剣使いとして後輩であるシャールちゃんの指導もできる。一石三鳥ってワケさ」
エリシアはにやりと笑ってそう言ってのける。そんな彼女の言葉に、エリオスは低く唸るように呟く。
「そう……レイチェル卿めぇ……『最大限の努力』ってこういうことかぁ……!」
ぶるぶると震えるエリオスの拳と唇。レイチェルに出し抜かれ、嵌められた形となったことへの怒りと屈辱からだろう。彼の目の端には雫が浮かんでいるようにすら見える。
そんな彼に追い討ちをかけるようにエリシアはウインクをキメる。
「安心してよ。家賃と食費分は聖教会から出るからさ。そう言うわけで、『仲間』で『お客様』なボクを、これから二ヶ月間、どうぞよろしく♡」
恭しく頭を下げるエリシアを、エリオスとアリアはひどく苦々しげな表情で口元をひくつかせながら見下ろしていた。
これにてEpisode.4は完結となります。長いことお付き合いいただきありがとうございました。
次回からは、またインタールードを少し挟んで本編に入ろうかと思います。
今後とも是非お付き合いくださいますようよろしくお願いいたします。
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