Ep.1-21
「たとえ私がそれを呑んだとして——私が約束を反故にして、あなたの触れない聖剣を使ってあなたを殺しにかかったらどうするんですか?」
シャールはあえて挑発するような笑みを浮かべて、そうエリオスに問うてみる。あえて生意気なことを言って、目の前の魔術師からもう少し本心を引き出したいと思ったからだ。しかし、そんなシャールの稚拙なはかりごとなどエリオスは歯牙にもかけず、それをあざ笑うように口の端を吊り上げる。
「どうもしないさ。あの哀れな王子サマの間抜けな最期を忘れたのかい? 剣術に優れ、壮健な身体を持つあの男ですら私に一太刀浴びせる前に死んだ——君如き、聖剣を持たせて放し飼いにしたところで何のことは無いさ」
くつくつと喉の奥で笑いながら、エリオスはそう言ってのけた。シャールは奥歯を思い切り噛み締める——悔しい、悔しいが彼の言う通りだ。先ほどエリオスに傷をつけられたのは、シャールの聖剣保有者としての覚醒が完全に彼の想定外だったからだ。聖剣の力と致命的な隙、その二つがあってようやくつけられたのがあの傷——あの傷だけなのだ。聖剣保有者であると認識されてしまったシャールは、少なくとも今のままでは、もう二度と彼に傷をつけることは叶わないだろう。
「さて、質問は以上かな? それならさっさと決断してほしい——二択だ。私の所有物になるか、ここで他の三人のように無残なモノになるか」
エリオスはそう言って腕を組み、シャールを見下ろす。
死ぬのは今更怖くない——などと、言ってしまうと嘘になる。一度は捨てたこの命だが、生存の可能性を与えられてしまうとその決意が大きく鈍る。死にたくない、死にたくない。痛いのは嫌だ、苦しいのも嫌だ——脳裏に浮かぶのは、目を抉られ、肉を削がれた無残な姿で打ち捨てられたミリアの亡骸。自分もあんな風になるのだろうか——そんな道、進んで選びたくなどない。
そう思う一方で、彼の言いなりになるのに強い抵抗を抱く自分もいる。自分は魔王の手から世界を救わんとする勇者ルカントの一行で、聖剣アメルタートにも選ばれた人類の味方だ。非力でも、足手まといでも、その矜持だけは捨てたくない——捨てて仕舞えば自分の価値が暴落するのが分かっていたから。
揺れ動く心——そんな中、シャールの手の中に握られたアメルタートが動く。
「——!」
エリオスがぴくりと眉を動かす。
その切先が自分に向けられるのではないかと、警戒して睨みつけるエリオス。しかし、若草色の切先はエリオスの喉元を通り過ぎる。そして——
「何のつもりだ——」
エリオスが唸るような声を上げる。怪訝な瞳で、シャールを見る。
その視線の先、アメルタートの切先はシャールの喉に触れていた。
自分の首に聖剣をあてがいながら、シャールは震える声で口を開く。
「ひとつだけ、質問があります——」
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