Ep.4-79
翌日の朝、広間の玉座に鎮座するエリオスの前にはレイチェルを筆頭に、ザロアスタとエリシアが立っていた。エリオスの傍らにはアリアが、ステンドグラスの窓際にはシャールが控えている。
にんまりとした笑みを浮かべるエリオスやアリアに対してレイチェルやザロアスタの表情は険しいモノだった。どこか剣呑とした空気が流れる中、レイチェルが口を開いた。
「これより私たちは、一時聖教国に帰参します。最高巫司猊下の御命令通り、暗黒大陸からの魔王軍の進撃――まあ、小競り合いのようなもので済むとは思うけれど、それを撃退してくることになっていますので。ですのでその間――」
「ああ、分かっている。こちらもそれなりに準備を整えておこう。尤も、準備などどれだけ必要かというのは疑わしいけどね」
くつくつと笑いながら、エリオスはレイチェルに応える。その言葉に、レイチェルは少し眉根を寄せたものの、咳払いをして話を再開する。
「――軍備を編成し、作戦方針を整え、聖教国内外に向けて対魔王の宣戦を布告するまでにはしばらく時がかかります。ざっと見積もっても、二か月ほど。我らの準備が整い次第、使者を遣わして聖教国へと召還いたします。カルヴェリウス殿におかれましては、万全を期した準備、練達の上、従軍していただきたい――それと、従軍までは是非『聖教会軍の一員』としての節度ある振る舞いを」
「失敬だなあ、私は何時だって節度ある振る舞いを心掛ける紳士だとも。尤も、降りかかる火の粉の一つ一つにまで節度を示す必要はないと思っているがね」
エリオスはあざ笑うように、口の端を吊り上げながらそう宣う。その楽し気な陶酔したような視線は、西の方——レブランク王国があった方角を向いていた。そんな彼の所作に、レイチェルは強く歯噛みする。しかし、次の瞬間にはゆるゆるとかぶりを振って、大きく息を吐いた。
「では、貴方に降りかかる火の粉がないことを祈りましょう。ですが、ええ。どうぞご安心を、我々としても、最大限努力しますので」
そう言って、レイチェルはほんの薄っすら口の端に笑みを浮かべる。そんな彼女の表情と言葉の意味を測りかねたように、エリオスは首をかしげる。
「――? 一体何の努力をするのかは知らないけど……まあ、いいか。それでは、聖教国の守護者たち。是非とも務めを果たしてくれたまえ」
「ふふ、スラムの野良犬みたいに無様に野垂れ死なないよう精々心がけなさいな。メ・ス・イ・ヌ」
泰然と言い放つエリオスと、それに重ねて嘲りと侮蔑の言葉を投げかけるアリア。しかし、そんな二人の言葉に、今更掻き乱されることもなく、レイチェルは静かに口を開く。
「——無論です。そして、同じ言葉をそっくりそのまま返させて頂こう。その戦力、くれぐれも徒らに損なうことのないように」
そう言ってレイチェルもまたにやりと笑って見せた。そんな彼女の表情に、アリアは僅かに驚きの表情を浮かべてから、小さく舌打ちする。剣呑な言葉と視線の応酬。
そんなやりとりの中にありながら、エリオスはどこかひどく愉しげにくつくつと笑っていた。
今更ですが、最近投稿時間が乱れ気味なので、読者の皆様におかれましては少なくとも夜の投稿については「そういうもの」とお考えいただければ……昼の投稿は、今後とも出来る限り12時~1時台に行わせていただくつもりです。




