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Ep.4-77

ダイナミックに寝落ちしました

「まあ、アンタの目論見は理解したわ」


そう言ってアリアはマグカップの中のホットミルクを啜る。琥珀色の透き通った蜂蜜をたっぷりと溶かしたそれを飲むと、自然と彼女のとげとげしかった表情も和らぐ。そんな彼女の表情をどこか愛おし気に見つめながらエリオスはほほ杖をつく。


「――これでお怒りは収まりましたかね、ご主人様」


「そうねえ、一応アンタの言い分は理解したわ。私のためって言葉に偽りがないことも。でも、それを私に黙って決めちゃったのは、主人として何らかの折檻をするべきよねえ?」


意地の悪い、獲物を甚振る肉食獣のような嗜虐に満ちた瞳を向けてくるアリアに、エリオスは肩を竦めて苦笑を漏らす。


「我が主人は本当に強欲だ——ま、それでこそ私のご主人様だけど」


「ふふ。もう一つくらい、何か理由があるんでしょう? そうでなくちゃ、アンタが私に諮りもせずに即決するとは思えないもの」


「——本当に、私のことをよくご存知で」


エリオスは、ヒールで殴りつけられた頬に手を当てながらため息混じりにそう返した。

そして、おもむろにソファから立ち上がると、つかつかと壁際の本棚に近づき、その中から一冊の本を取り出した。

重厚な厚表紙(ハードカバー)はひどく傷んでいて、刻まれたタイトルは読み取りづらい。エリオスはそれを慣れた手つきで開く。そこには精緻な文字列が刻まれていた。


「——神話? アヴェスト聖教会の……」


文字列をちらと見て、アリアはぽつりとそう言った。

エリオスはそんなアリアの言葉に満足そうに頷くと、それをパラパラとめくりはじめる。


「君、神話とかわざわざ改めて読んだことないでしょ?」


「当たり前じゃない。何が悲しくて連中の至上主義な物語なんて——」


「ま、そうだろうね。でも、我々の目的を達する上ではアヴェスト聖教会の神話も参考にしなきゃだから、割と前から調べていたんだ——ああ、あった」


そう言ってエリオスはページをめくる手を止める。そして、開いたページをアリアに見せるように、テーブルの上で本の向きを変えた。


「これを——」


「何これ——えっと……英雄暦開始後からの物語じゃない。私、この辺りのことは全然分からないのよね」


アリアはそう呟いて、眉を顰める。

アヴェスト聖教会における神話群は、すべて神代と呼ばれる先史文明期の物語だ。しかし、それもまた大別すると、一人の英雄の誕生を起点に二つの時代に分けられる。

英雄の名前はエイデス。はるか昔に現れたという、最初の魔王を神に代わって倒し、その功績から人間でありながら神々の住まう神界へと招かれ、後に人の身でありながら神の座に至ったとされるこの世界における伝説的英雄。原初の勇者。

神話学においては、天地開闢からエイデスの誕生までを「大神暦」。そこから神話時代の終わりまでを「英雄暦」と呼んでいるそうだ。

不服そうに神話を読み進めるアリア。しかし、不意にその表情が強張った。


「これは——へぇ、そうだったの……」


アリアはそう言って、皮肉っぽい笑みを浮かべながら、エリオスを睨むように見つめる。そんな彼女の瞳を、エリオスはひどく楽しげに見つめていた。

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