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Ep.4-75

4連休も後1日ですか……

部屋を出ていったシャールを見送ってから、エリシアは口を開く。


「――難儀な娘だよね。彼女も」


そんな彼女の言葉には答えず、レイチェルは手近なスツールに腰かけて腕を組んだ。そんな彼女の無反応に唇を尖らせながら、エリシアは問いを重ねる。


「というかよかったの? シャールちゃんの頼みをあんな簡単に聞いちゃって。最高巫司に諮りもしないで」


「良くはないでしょうね……でも、猊下はきっと理解してくださる」


「――というか、今回レイチェルちゃん独断が過ぎるんじゃないの? 最高巫司の言い付けも守らないでエリオスくんを殺しに掛かったり……らしくないよ?」


眉を寄せるエリシア。そんな彼女の表情にレイチェルはわずかに頬を緩める。それは、エリシアの言葉が非難の意思から出たのではないと理解していたから。レイチェルは立ち上がり、窓に歩み寄りながら零すように口を開く。


「――私は、レブランクの惨状を見てきました。彼は街を焼き尽くしただけではない、人々の心さえも憎悪の炎で焼き焦がし、不毛な憎しみと断絶を生み出した」


レイチェルは窓ガラスに触れながら、目を閉じる。

瞼の裏に映し出される惨状――誰もかれもが憎しみを抱き、どす黒い欲望を抱いていた戦場。街も、そこに生きる人の心も地獄と成り果てた地平。

血の匂いと怨嗟の叫び――今も脳裏に焼き付いたそれを思い出すたびに、レイチェルは胸の裡をかきむしられそうな怒りとも悲しみともつかない感情に襲われる。


「彼があの国の破滅を執行した経緯は知っている。彼だけが悪いわけじゃない――レブランクの自業自得と言ってしまえばそれまでかもしれない。だが、あの街で私が見たのは、そんな一言で切り捨てられるような光景(モノ)ではなかった」


「レイチェルちゃん……」


「――彼がその行いを悔いているのなら良い、胸の裡のどこかで悲しみや虚しさを感じてくれているのなら良い。だが、彼は笑っていた。多くの人たちの命を奪い、人生を滅茶苦茶にしていながら、彼はただの少年のように笑っていた……! 私はそれが恐ろしいの」


唇を震わせながら窓ガラスの向こうに見える景色を睨みつけるレイチェルに、エリシアは言葉を掛けることなくその背を見つめていた。

数瞬の沈黙の後、レイチェルは振り返る。その目にはわずかに涙が浮かんでいた。


「――彼は危険です。それは力もそうですし、何よりその精神性が恐ろしい。彼は世界そのものを壊してしまう……そんな気すらする。だから、私は彼を殺そうとしたし、シャール嬢の願いを幸いだと思った……私は従者としては失格かもしれません。けど、彼がいてはあの方の望むような世界は訪れない……だから」


「分かった、分かったよ。全く、シャールちゃんといい君と言い……聖剣使いには難儀な奴が多すぎる。ボクから言わせれば、みんなひどく生きづらそうだ」


エリシアはそう言いながら、立ち上がると窓ガラスに当てられたレイチェルの手に自分の右手を重ねた。

現場を見ないと分からないこと、知り得ない感慨というものもあるもので……

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