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Ep.4-72

『そうですねぇ……ねぇ、レイチェル。聖遺物に手を出した人って、聖典教義官の教会法だとどういう扱いだったかしら?』


彼女の問いにレイチェルちゃんは考える間も無く応える。


『磔刑、車裂き、火刑——手を出した聖遺物の神性の高さに応じてその刑の惨さは変わりますが、死刑は免れません』


『ですって。統制局の作った法典は惨いですねぇ』


他人事みたいに——まあ、彼女からすれば他人事なんだけど——言う彼女を、その時ばかりはボクも睨みつけたよ。そんなボクの顔を見て、彼女はにっこりと笑った。


『でも、貴女は聖剣ヴァイストに選ばれましたから。助けてあげたいと思うのですけどいかがでしょう? レイチェル』


『統制局の敷いた法を捻じ曲げたとあれば、統制局長閣下との亀裂は深まりますよ?』


『でも助けたいの。せっかくヴァイストが選んだ逸材よ?』


食い下がる彼女にレイチェルは深々とため息を吐いた。そして肩を竦めながら呟くように言う。


『——法を捻じ曲げるのではなく、この件を無かったことにする、あるいは法に反しないと言う形に整形すれば——少なくとも表立って対立の火種とはなり得ないかと』


『流石ねレイチェル。小狡いことにも頭が回るようになって私嬉しいわ』


『猊下!?』


『——それじゃあ、彼女は私が見出した勇者候補だったということにしましょう! 侵入については「墓所」の警備状態を心配した私が、彼女に頼んでしてもらったテストということにしてしまえば、ちょっと苦しいけれど筋は通るわね。ザロアスタ卿と彼らにはちょっとここ数分のことは忘れてもらいましょう』


そう言って彼女は手に持った杖で床を打ち鳴らす。その瞬間、跪いていたザロアスタの配下の聖騎士たちはその場に崩れ落ち、寝息を立て始める。


『これでよし!』


無邪気に心底楽しそうに、法の網の目を掻い潜る企てを考える彼女をボクはぽかんとしながら見ていた。きっと口をぽっかりと開けて本当に間抜けな表情。してたと思う。


『ところで猊下。ザロアスタ卿、幸せそうな顔で気絶してますけど死にそうですよ?』


『あら大変! すぐに止血の魔法をしないとね。ああでもその前に——』


わたわたとしながら、彼女はボクの前に座り込んで指をぴっと立てて見せた。そして、真面目くさった表情でボクに宣告する。


『私は貴女の命を助けてあげた。それはいいですよね?』


『え、あ……うん』


『なら、貴女は私にぜったいふくじゅーです! 私が貴女の正体をバラしたら、貴女処刑されちゃうもの。つまり生殺与奪を握られてるって訳です! よろしい?』


可愛い顔してるのに、とんでもなく悪辣なことを無邪気な風に言ってのける彼女に、ボクは言葉を失ったよ。そんなボクが答えるのを聞くこともなく彼女はニコニコと笑っていた。

だからボク、少し腹が立っちゃって聞いたの。


『絶対服従なんて関係を結ぶなら、せめて名前くらい教えてくれない?』


『あら、そういえば教えてませんでしたね。でも、一般的な教養があれば分かりそうなものですけど』


『悪いけど、教養なんて身につけるほど良い御身分の生まれじゃないんでね』


『そうですか。まあ躾がいがあると言うことで——改めて自己紹介しましょうか』


そう言って彼女は胸に手を当てながらにんまりとした笑みを浮かべて告げる。ま、もう君も想像ついてると思うけどね。


『私の名前はユーラリア・ピュセル・ド・オルレーズ。通りのいい名乗りをするのなら、最高巫司。アヴェスト聖教会で一番偉い人、ですよ——よろしくおねがいしますね。私たちの勇者様』


恥ずかしげもなく彼女はそう言った。

ようやく最高巫司の名前を出せました……

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