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Ep.4-70

『——大神殿への侵入、「墓所」への無断立ち入り、そして聖遺物にその汚い手で触れんとしたその行い。もはや酌量の余地はないな。簒奪者にして冒涜者よ』


そんな死刑宣告じみた口上とともに斬りかかってきたザロアスタ卿。いや、ホントに彼は強かった。あの時のボクは聖騎士に変装するために、騎士の鎧を身に纏い、分厚くて重いロングソードを手に持っていたんだけど、慣れない装備だったっていう不利条件を差し引いたって、とてもじゃないけど彼には敵わないと思った。あーこれ死ぬなーって。

それでも、ボクはなんでか知らないけれど、その瞬間に「死にたくないな」って思った。別に死んでもよかったはずなのに、宝物庫に入ってから何故か死にたくないって思うようになってた。もしかしたら、もうその時から導かれていたのかもしれない。

死の恐怖からでもなく、ただ「死ねない」という感覚。だから、ボクは剣を捨てた。鎧も脱ぎ捨てて宝物庫の奥へと向けて走った。

騎士たちを撹乱させて、入り口を突破する道もあったのかもしれないけれど、何故かボクの足は宝物庫の奥へ、出口なんてないどん詰まりの方へと向いていた。

およそボクには価値なんて計りきれないような宝物たちに目もくれず、ボクは真っ直ぐに奥へ奥へと走っていった。

ザロアスタ卿は追いかけてきていたけれど、そんなのが気にならないくらい、ボクは無心で走っていた。

そして、ソレに出会った。

宝物庫の最奥部、黒くて重厚な幾本もの鎖に縛められたソレを見た瞬間に、ボクは足を止めた。


『ああ、君がボクを呼んでいたんだ』


何か妙な感慨や陶酔に浸ってたとか、そんな訳じゃなくて。言葉が自然と胸の奥底から湧き上がってくるような、そんな感覚。

君ならその感覚にも覚えがあるんじゃないかな?

黒い鎖に縛られたソレ——わずかに赤みを帯びた刀身、燃え盛る豪華なような精緻な装飾が施された柄。

ボクは何の迷いもなくその柄へと手を伸ばす。


『キサァァァマァァァ!!』


その瞬間、背後に迫っていたザロアスタ卿が吠えた。ボクがそれに手を伸ばすのを咎めるように。そして駆け寄り、ボクに向けて剣を振り上げる。

それでもボクはその手を伸ばすのをやめなかった。いや、やめられなかったというのが正しい。身を引き裂くような焦燥感が身のうちで暴れていたから。

黒い鎖に縛られた剣に手をかける。

その瞬間、鎖の隙間から赤い光が漏れ出た。


『——馬鹿な……!』


ザロアスタ卿の狼狽えたような声が聞こえた気がしたけれど、ボクはもうそんな彼の表情を拝む余裕もなかった。

ボクは何も考えずに、両手でその剣を掴んだ。そして、剣を思い切り引き抜いた。その瞬間に、剣を縛めていた不躾な黒い鉄の鎖は砕け散った。

そして、ボクは見た。そして心を震わせた。初めて自分が心の底から惹かれた、欲しいと思った『価値』——赤く燃える光を放つ聖剣の美しさに。

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