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Ep.4-68

「そう。ボクこと勇者エリシア・パーゼウスの前職は盗賊なのです!」


エリシアは悪びれるでもなく、どこか照れくさそうにそう言って見せた。そんな彼女の突然の告白に、シャールの脳内は困惑が極まる。

盗賊がどうして勇者に? 何故彼女はこんなことを自分に話すの? 色々な感情と疑問がぐちゃぐちゃになりながら、シャールはエリシアを見つめていた。

そんな彼女に、エリシアはぴっと指を立てる。


「ただ、一応言っとくけど、ボクは盗みのために誰かを殺したことはないからね? 群れて馬車を襲ったりするのじゃなくて、忍び込んで鍵を開けてお宝を頂くようなタイプ——ま、どっちにしろ盗人で、罪人で、人を傷つけた悪人で……そこは自覚してるんだけどね」


少し寂しげな表情を浮かべながら、エリシアはそう付け加えた。

シャールはそんな彼女に、いったいどんな感情を向ければいいのか分からなくなっていた。だから、そのぐちゃぐちゃとした感情に指向性を与えるために、シャールは口を開く。


「――どうして、盗賊なんて?」


「尤もな疑問だよね。まあ、でも御大層な理由なんてないよ。ボクはスラムの生まれだったからね、お金が無くて学もない、身軽なだけが取り柄の薄汚い小娘。生きるために手っ取り早く稼ぐ最適解は、あるところから無理やりとって来るしかない――だから、それを生業にした。よくある話さ」


確かによくある話、この世界にあってはよくある事例だ。よくあるがゆえに、他人事とは思えないしシャールは彼女を非難できない。悪いことだけれど、もし自分がその状況に置かれたら――自分がのどかだった辺境の村ではなく、街のスラム街で生まれていたのなら、そう言う選択をしないと言い切れる自信が無いから。

シャールはそんな複雑な心境のまま、問いを重ねる。


「——そんな貴女が、どうして勇者に……?」


「まあ、それもやっぱり気になるよね。簡潔(シンプル)に答えるのなら、それは『聖剣に選ばれたから』だね。聖剣に選ばれたからこそ、ボクは『勇者』なんて御大層な肩書きを背負うことになった」


少し焦点をずらした彼女の答えに、思わずシャールの表情には不満げな色が浮かぶ。そんな彼女の無意識の素直さに、エリシアは少し困ったような表情で苦笑を漏らした。


「そんな顔しないで。ちゃんと君の聞きたいコトには答えるから。私がどうして聖剣に選ばれたのか、それは聖剣の意思としか言いようがないけれど、そこに至る経緯、どうして聖剣に出会ったのかは話せるからさ」


エリシアはそう言ってベッドの傍に立てかけた聖剣を引き寄せる。そしてその鞘を、柄を撫でながら目を閉じる。


「この聖剣——ヴァイストはさ、言ってしまえばボクの命の恩人なんだ」


そう言ってエリシアは語り出す。彼女が聖剣ヴァイストと出会い、勇者となるまでのことを。

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