Ep.4-67
「わ、私が魔王の討伐に……?」
「そうだよ。アレ、言ってなかった?」
エリシアは失敗したというように、額をぴしゃりと叩く。そして、話し始める。
「最高巫司は、今回の討伐隊には彼女の権限で動員しうるすべての聖剣を動員するつもりだ。具体的には、彼女と同格の統制局長が持つアールマティ、そして魔王が持っているであろうハルヴァタート、所在不明のスペント・マユ以外の聖剣を、ね」
エリシアはそう言ってさらりと笑う。そんな彼女とは対照的に、シャールは憔悴しきっていた。
自分にそんなことが出来るわけがない――戦ったって足手まといになるだけだ。絶対に無理。
ぐるぐると彼女の脳内を巡るネガティブな言葉の数々。シャールの顔は、そんな困惑と自己嫌悪と怯えが見事に映し出されたようだった。
そんな彼女に向けて、エリシアは小首を傾げる。
「えっとぉ、もしかして嫌?」
「え、あ……嫌、というか……そもそも私には無理なんじゃないかと……」
シャールはおどおどとした声音で、卑屈な苦笑を浮かべながら俯いた。そんなシャールの顔をエリシアはじっと見つめる。
正直、今彼女にこんなことを言っていること自体、シャールにとってはひどく辛い。自分で言っていても、情けなくて涙が出そうになる。それを、こんなに堂々とした「勇者様」の前で、ひけらかしている自分自身の矮小さ、滑稽さ。
ティーポットから立ち上り、空中に解けていく湯気のように消えてしまいたいとすら思う。
そんな彼女の頭を撫でながら、エリシアはにんまりと笑う。
「ねぇエリシアちゃん。ボク、勇者になる前何やってたと思う?」
「へ? え、えっと……騎士様?」
「ぶぶー! 残念ながらボクはそんなにご立派な人間じゃあないな。貴族の生まれでも、神学校に行ってたわけでもないしね」
エリシアは手でバツ印を作って、楽しげにそう言った。
「じゃあ……冒険者?」
「お、ちょっと近くなって来たねぇ。でも残念!」
「どこかの国の兵士? 貴族の用心棒?」
「うーん残念、全部ハズレ!」
「うう……」
頭を抱えるシャールを楽しそうに見つめながら、エリシアは小首を傾げて見せる。
「そろそろ降参?」
「うう……そうさせていただきます……」
エリシアとしてはちょっとしたお遊びのつもりだったクイズなのだが、シャールは重要な問いであると勘違いしたのか、若干本気でへこんでいた。
そんな彼女をどこか愛おしげな目で見ながら、エリシアはシャールの額をつんと指でついた。
「じゃあ、正解発表! 正解は、ボクこういうものでしたー!」
そう明るい声で宣いながら、エリシアはシャールの目の前で握った手を開いて見せる。
「え?」
彼女の手の中には、ついさっきまで彼女が身につけていたはずの小さな髪飾りが煌めいていた。
いつ彼女の手中に収まったのかと考えたとき、シャールは先程エリシアに頭を撫でられた時のことを思い出す。あの瞬間に、彼女はシャールの頭から髪飾りを気づかれないように外して、手中に収めたのか。そんなことが出来るなんて——そこまで考えてシャールはふと息を呑む。
こんな鮮やかな手際が示す、彼女の過去。それはきっと一つしかない。
エリシアもシャールが答えに辿り着いたのをその表情から読み取って、にんまりと笑う。
「そう。ボクこと勇者エリシア・パーゼウスの前職は盗賊なのです!」
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