Ep.4-66
「——さて、ともに魔王を倒すと決めたからには、我らは仲間、そしてこの屋敷にあってはお客様というわけだ。まずは我が屋敷で、その傷や疲れを癒したまえよ。諸君」
そんな厭に優しげな言葉と、不気味なほど爽やかなエリオスの笑顔と共に、会談はお開きとなった。
エリシア、レイチェル、ザロアスタの三人は、シャールの案内でそれぞれ並びの客間へと通される。
「——ふぅ……」
客間の柔らかなベッドの上で、簡素な鎧と外套を脱ぎ捨てたエリシアは大の字になる。
疲労と緊張感に張り詰めていた身体が蕩けていくような感覚に襲われるが、何とか意識を保とうとする。
そんな睡魔との葛藤中に、コンコンと硬く乾いた音が二つ響いた。
「どうぞぉ……」
「失礼します——あ、ごめんなさい。おやすみ中に」
扉を開けて現れたのは先ほどまでエリオスの隣にちょこんと座っていた少女、シャールだった。シャールはおどおどした様子で頭を下げると、慌てて部屋から出て行こうとする。
「あ、大丈夫だよ、入って来て。少し疲れてただけだからさ。どうしたんだい、お嬢さん?」
エリシアは何とか上体を起こして、シャールの方を見る。シャールはこくりと頷くと扉の外にあった台車を部屋の中へと引っ張り込んでくる。
その上にはお菓子の盛られた皿と香りの良い湯気の立ちのぼるティーポットが置かれていた。
「さっきの残りですけど……もしよろしければ」
「わお! ありがとう、早速いただくよ」
エリシアはベッドから飛び起きると、シャールに駆け寄って、皿の上からクッキーを一枚つまんで口に運ぶ。さっくりとした食感、口の中で解けていく甘味。
「あー、美味しい!」
「良かったです。先程はあまり手をつけられていなかったようでしたので、甘いものは苦手なのかと」
そう言ってシャールは緊張した面持ちを緩めて、ふわりと笑った。そんな彼女の表情を見て、エリシアは釣られたように微笑む。
「優しいね、君は。しっかりとボクのことを見てくれてたんだ」
「え、あ……ごめんなさい。不躾でしたね」
花が萎れるように、シャールは俯き、その顔から笑顔が消える。それを見てエリシアは慌てる。
「え、あ、いや、皮肉じゃなくてね! 本心! 本心だから! 他意はないよ!? ホントだよ!?」
慌てるエリシアの表情を見て、シャールは少しぽかんとした表情を浮かべる。
「お優しい、方なんですね。エリシア様は——あの人に物怖じもせず剣を向けていたから……何というか、すごい人なんだと。聖騎士の方たちともあんな親しく」
「ああ、実はめちゃくちゃ偉い人だったりして、なんて思ってた?」
エリシアの言葉にシャールはこくりと頷く。そんな彼女の素直さにエリシアは思わず苦笑を漏らした。
「そんなことない。さっきも言ったけど血の貴さだとか、力で言えばボクより優れた存在はたくさんいる。だから、そんなに気負わないでもっと仲良くして欲しいな——だって、君もボクらの仲間なんだし!」
「はい——はい?」
さらりと告げられたエリシアの言葉に続けて、シャールの間の抜けた声が部屋に響いた。
定期的に夜の投稿時間を変えてみようかなーなどと考えたりしてます。
なんか投稿が日付越えた時のPVの伸びがつよつよだったので……
少し色々検討します




