Ep.4-65
なんか今日は頭痛が酷いです(だからどうした)
「——は?」
静寂に包まれた食堂室。エリオスの答えに誰もが固まっていた。
数瞬間の沈黙。それを破ったのはアリアだった。
「え、は……はぁぁぁぁぁ!?」
「ちょ、アリア。耳元ででっかい声出さないでよ! 鼓膜がイかれる!」
「あ、あんた……アンタねぇぇ! わ、私に何の断りもなく、そんなさも当然みたいにぃぃ!」
両手で耳を塞ぐエリオスの顔の横で、張り裂けんばかりに叫ぶアリア。ここまでアリアが慌てふためくのも珍しい。
シャールにしても色々言いたいこともあったが、こんなアリアの怒りと混乱と驚愕の混じり合う絶叫に、言いたいことが全て阻却されてしまう。
「わ、私は……アンタだけは……! わ、私だけの……うううう!」
子供のような声で、泣きそうな声で唸り喚くアリア。エリオスはそんな彼女をちらと見て、そっとその手を引いて、彼女の軽くて細い身体を抱き寄せる。
そして彼女の耳元で囁く。
その声は本当に微かで、すぐ隣に座るシャールがようやくなんとか聞き取れるほどの、本当に彼女だけに向ける言葉だった。
「——心配しなくても、私はちゃんと君だけのものだよ。可愛いご主人様」
「だったらなんで聖教会なんかの——!」
「ちゃんと意味がある。説明は後でするけれど、全ては君と私のためだとも。だから、君には私を信じて欲しいな」
そんなエリオスの穏やかな言葉にわなわなと震えていたアリアの動揺も収まっていく。そして、アリアは小さく息を吸うと、彼の耳元で囁く。
「分かった。信じる」
そんな短い、何の捻りもない彼女の言葉にエリオスはとても嬉しそうな笑みを浮かべながら目を閉じた。そして、アリオスはアリアから離れて、改めてレイチェルたちに向き直る。
「さて、人前で失礼したね。ちょっと情熱的すぎた?」
くすくすと笑いながら、エリオスは呆気に取られていたレイチェルたちに玩弄するような視線を投げかける。そんな彼の皮肉っぽい声に正体を取り戻すように、彼女たちは居住まいを正す。
「えっとお、エリオスくん? 改めて聞くけど、ボクたちと一緒に魔王討伐をしてくれるってことで良いのかな? 間違いない? 考え変わったりしない?」
エリシアの表情にも若干の困惑が見える。飄々とした彼女もあんな風に驚き慌て、混乱するのだとシャールは意外に思った。
そんな彼女の問いかけに、エリオスは唇を尖らせる。
「一体君は私を何だと思ってるんだい勇者サマ。私だってこんな判断を思いつきや、反射的にしたりはしない。自分の中でしっかりと検討を重ねた上での判断さ」
「失礼を承知で尋ねるが——それは、我々を土壇場で裏切るというような検討をしたわけではないのですね?」
レイチェルの問いかけに、エリオスはいよいよ頬を膨らませて子供っぽく怒る仕草をして見せる。
「ひどいなぁ。せっかくの私の好意をそんな風に——ま、当然といえば当然か。心配ならばこの場で宣誓の術式でも使おうか? 私は魔王討伐が終わるまで君たちに危害を加えないって。少なくとも、君たちが私に危害を加えない限りはね」
エリオスはそう言いながら、茶目っけたっぷりの笑顔でウインクして見せた。




