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Ep.4-63

「――ともかく、()の権能を有するハルヴァタートには、そのような枠にとらわれず、常に変転する掴み所のなさがある。それは神話における描写でも常々語られているところだ。また、人や文明を育む川が突如、その全てを奪い去り消し去る濁流となるように、善悪を超越した存在としても語られる——それが『奔流』のハルヴァタートだ」


ザロアスタは饒舌にそこまで語り終えると、再び壁にもたれかかり、レイチェルをちらと見遣る。レイチェルはそんな彼に苦笑を漏らした。


「ご講義感謝する、ザロアスタ卿。さて、聞いての通りハルヴァタートは善悪を超越し、捉え所のない存在だ。他の聖剣以上に柔軟な選定基準を有していると考えてもおかしくはない」


「その柔軟な選定基準の結果、『神への敵対者』を主人に定めちゃったってコト? アハ、とんだお笑い種ね」


アリアはそう言って目を細める。嘲けるような声音はひどく攻撃的で、シャールは普段の彼女らしくないその振る舞いに眉を顰める。

今日はどこかずっとあんな感じだ。

そんなアリアの挑発的な言葉を意に介することもなく、レイチェルはシャールに目を向ける。


「聖剣の意思は私如きに測れるものではありませんので、断言はできませんが——少なくとも聖剣に選ばれる人間は『誰でもいい』というわけではない。ハルヴァタートでさえも、きっと何かの基準を以って自身の主人を選んでいます。そしてそれは絶対に、力や血筋だけではない」


レイチェルは力強くそう言い切った。その言葉に、エリシアもようやく彼女が何を言いたいのか、シャールの不安げな表情がどういう意味だったのかを理解したようで、ぽんと手を叩く。そして、にっこりと笑ってシャールを見つめる。


「そうそう。聖剣が主人を選ぶ基準がそんなだったら、ボクやレイチェルちゃんなんて選ばれやしないものねぇ」


そう言ってエリシアはレイチェルの肩に手を回して、彼女を引き寄せる。


「えっと、それは——どういう?」


シャールの疑問の言葉に、レイチェルはぎろりとエリシアを睨みつけて肩肘で彼女の脇を小突く。


「えーと……まあ、ほら。ボクらよりも強い奴、ご立派な血統の奴なんてゴマンといるって話さ」


エリシアは何かを誤魔化すような表情で、頬を掻きながらそう言った。

しかし、すぐにそんなきまりの悪そうな表情は消え去って、エリシアは真っ直ぐにシャールを見つめる。そして、柔らかな笑顔で言った。


「そんな完璧でも、至高でもないボクらだけど。それでもボクらは選ばれた。偶然聖剣と出会えたからかもしれないけれど、もっと相応しい人がいるのかもしれないけれど。それでも聖剣はボクらを見て、そしてその上でボクらを選んでくれたのさ。だから、そこは自信を持って欲しいな」


そう言ってエリシアはシャールに微笑んだ。シャールは無意識にアメルタートへと手を伸ばす。

そしてその柄を撫でながら、口元を緩める。


「そうだったら、嬉しいな……」

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