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Ep.4-62

「『奔流』を司る聖剣、ハルヴァタート。それこそが魔王の持つ、青く清浄な光を放つ聖剣の正体だと、聖教会は考えている」


エリシアはそう言って、六つの角砂糖が溶けた紅茶を口に運ぶ。カップ一杯にその数の角砂糖は多すぎたのだろう。彼女はわずかに表情を歪ませながらも、それをぐいと飲み干した。

そんな彼女をよそにエリオスは口元に手を当てて考えこむ。


「あの……聖剣が神の敵対者である魔王に与するなんてこと、あり得るんですか……?」


沈黙に支配された空間に耐え兼ねて、シャールはおずおずと問いかける。

――聖剣は神の権能を写したもの。それを「神の敵対者」たる魔王が保有しているというコトも十分に奇怪だが、理屈が一切成り立たないというわけでもない。しかし、それ以上に聖剣が「魔王」という存在を自身の保有者として選ぶというのは理屈が立つ余地はない――少なくともシャールの理解の範囲では。

シャールは心のどこかで勝手ながらに思っていた。自分が聖剣に、アメルタートに選んでもらえたのは自分の心の中にあるナニカゆえなのではないかと。例えば神への信仰心であったり、仲間を守ろうとして強大な敵の前に立ったことであったり、悪を憎む正義を希求する心であったり。そんなものが、自分と聖剣の縁を結んだのではないかと。

でも、もし聖剣がそんなものとは関係なく保有者を選んでいるというのなら――何か不自由や不具合があるわけではないし、自分が勝手な幻想を抱いていただけだという自覚もある。でも、だとしても。それはどこか、寂しいし、悲しい。

そんな思いが顔の端に滲む彼女の問いかけに、エリシアは少し驚いたような困ったような表情を見せる。なんでその質問をするのに、そんなに悲しそうな表情を見せる必要があるのかという困惑。エリシアは助けを求めるように隣のレイチェルに視線を送る。

レイチェルはその視線に応え、口を開く。


「――仮定の上に仮定を重ねた推論にすぎないモノですが、それでもよければ私の見解を示しましょう。きっとハルヴァタートが魔王を所有者として選んだのは、彼の剣の性質、司る属性によるところが大きいのではないかと」


「というと――?」


「『萌芽』のアメルタートが植物を、『晶析』のシャスールが鉱物を、『焼浄』のヴァイストが炎を司るように、それぞれの聖剣には、その権能が司る属性というものがあります。そして、『奔流』のハルヴァタートの権能が司るのは水」


「水……それが、どういう関係があるんです?」


「——なるほどな」


いまいち理解の追いつかないシャールに対して、壁際に立ち沈黙を守っていたザロアスタがそう零した。そんな彼を振り返り、レイチェルは頷く。

彼女の言葉を引き継ぐように、ザロアスタは語り始める。


「アヴェスト神話群において、水とは『自由』の象徴という意味合いがあるとされる。この場合の自由とは、統制だとか束縛の対義語としての意味だけでなく、奔放や柔軟という意味もある。それは、水という物質が氷や液体、そして蒸気のような気体へと変ずるという特性、定まった形を持たない流体ゆえに捉えることが難しいという特性、多くのものを溶けこませ一体となることができるという特性を持つが故とされる」


「——急に饒舌だな、ザロアスタ卿」


エリオスが怪訝そうに眉を顰め、苦笑を漏らしながらそう言った。そんな彼にレイチェルは応える。


「ザロアスタ卿は、騎士であると同時に聖教国の大学で神話学を研究する学者でもありますから。私も、彼の指導を受けたことがありますし」


「え——」


予想外の事実に、エリオスはひどく間の抜けた声を上げた。絶句するエリオスたちを見ながら、ザロアスタは鼻を鳴らす。


「続けてもよろしいかな?」

FGOの新章クリアしましたので、投稿時間とか徐々に戻るかと思われます。ここ数日とんでもない時間の投稿になり申し訳ありませんでした。

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