Ep.4-61
「聖剣を掲げた魔王、ねぇ……」
レイチェルの話を聞いてエリオスは静かにそう言って目を閉じる。
シャールとアメルタートを実験台とした、エリオスによる聖剣の調査と研究によれば、聖剣を持つだけならば、誰にでも——エリオス以外にならばできるのだという。ただ、それは物体を物理的に持つというだけであって、それでは聖剣は如何なる反応も示さない。そのままでは単なる「折れない剣」でしかない。
だが、斥候の話によればその聖剣は青く輝いていたのだという。
それは、その剣を持つ者が聖剣に認められたという証、神の奇跡を写した聖剣の権能を振るえるということ——もし仮に魔王が持っていた剣が聖剣で、その輝きが魔術の行使による偽装でないとするのなら、たしかにその魔王は「聖剣使い」なのだろう。
「その聖剣について、何か分かっていることはあるのかな?」
エリオスは腕を組みながら、右手の人差し指で組んだ腕を叩く。逸るような彼の仕草は、シャールの目には意外なものとして映った。
すると、今度はレイチェルに代わってエリシアが答える。
「魔王が持っていた剣が仮に本当に聖剣だとするならばっていう前提付きだけど、その聖剣の正体には想像がつくよ」
エリシアはそう言って、近くのシュガーポットを自分の目の前に引き寄せる。そして、その中からかくざとうを七つ取り出して、ソーサーの上に横一列に並べて見せた。
「神話によれば、聖剣はこの世界に七振りしかない。そのうち五本は所在が確認できている——そこのお嬢さん、シャールの『萌芽』のアメルタート。レイチェルちゃんの『晶析』のシャスール。そしてボクの『焼浄』のヴァイスト。それが今この場に集っている聖剣」
そう言いながら、エリシアは並べられた角砂糖を左端から三つつまんで、ティーカップの中に落とした。彼女のティーカップの中で、角砂糖は溶け崩れていく。それを見下ろしながらエリシアは続ける
「そしてこの場に無い聖剣のうち所在が分かっているのは、歴代の最高巫司が持つ『律鎖』の理を司る聖剣マナフ。統制局長——教皇が受け継ぐ『豊穣』のアールマティ。この二振り」
エリシアはそう言ってさらに左端から二つ、角砂糖を紅茶の中に放り込んでかき混ぜた。そしてエリシアはティーカップを手に取ると、香りを楽しみながらその飴色の液体を口に含んだ。
そして、それを飲み下してからエリシアはカップを持ったまま告げる。
「残るは二振り。そのうち一つは神話の中でその存在が語られるだけのスペント・マユ。でも、特徴とかを考えると魔王の聖剣がそれとは考えづらいんだよね」
そう言ってエリシアは残った2つの角砂糖のうち一つをちゃぽんと少し減った紅茶の中に落とした。そしてエリオスたちを見ながら告げる。
「残す一振り——『奔流』を司る聖剣、ハルヴァタート。それこそが魔王の持つ、青く清浄な光を放つ聖剣の正体だと、聖教会は考えている」




