Ep.4-56
「――帰るのならどうぞご自由に」
興味なさそうなエリオスの言葉に、レイチェルとザロアスタ、そしてシャールにアリアすらも驚いたような表情を浮かべる。いつも「奪ったからには」云々と徹底的に敵対者を蹂躙する彼のあまりの態度の違いに、シャールは眉を顰める。
それでもただ一人、エリシアだけはにんまりと、エリオスの言動すら予想通りと言わんばかりに笑っている。そんな彼女の表情にか、あるいは自身の言動に過剰に驚く周囲の反応に対してか、エリオスは少し不満げに唇を尖らせる。
「さっきも言ったが、私はこの状況において態々君たちと敵対する気はない。聖剣使いが3人——いや、1人は半人前だから、2.5人かな——それを相手に立ち回るのはリスクが高すぎる。それに」
そこで一旦言葉を切って、エリオスはレイチェルの手にある最高巫司からの書状に視線を注ぐ。
「君たちはともかく、君たちの飼い主は私に対する敵意や害意が無いようだ。それは、聖騎士諸君の言葉と、そこの勇者サマの行動を見て確信が持てた」
確かにレイチェルたちは最初からあくまで「同行」を求めていた。それに応じなかったエリオスと、あくまで自身の任務を全うしようとするレイチェルの対話が決裂した結果として、あのような戦いとなってしまった訳だが。
そして勇者エリシアも、自分の身内とも言えるレイチェルとザロアスタが捨て身でエリオスに戦いを挑んでいるにも関わらず、それを止めた。
これらの言動には、一貫してエリオスへの害意というものが見られない。
特にエリシアは、いつでもエリオスの首を刎ね飛ばせる状況にありながら、あくまで彼を聖剣で牽制するに留めていた。その点がエリオスの聖騎士たちの言葉に対する猜疑心を打ち砕く鍵となったのだろう。
「尤も、そこのレイチェル卿は割と私に手酷い扱いをしてくれたがね。しかも途中から私を殺す気だったみたいだし」
エリオスはそう言いながら、自分の左腕を撫でる。外見的にはあまり変わりがなかったが、彼の左腕が力なくだらりと垂れているのにシャールは気づいた。
エリオスの底意地の悪い声音にレイチェルは視線を逸らす。
そんなレイチェルに皮肉っぽい視線を送りながらエリオスは続ける。
「ま、そういう訳で私としては君たちとここでやりあうつもりはない、不本意ではあるがね」
そう言って肩をすくめるエリオス。そんな彼にニマニマとした視線を送りながら、エリシアは再び腰のバッグに手を突っ込む。
「じゃ、2人の件はこれでおしまいね。じゃあ次は君に向けてだ、エリオスくん」
そう言ってエリシアはバッグの中から先程と同じような巻かれた羊皮紙を取り出す。そしてそれをテーブルの反対側にいるエリオスに向けて放り投げた。
エリオスは危なげなくそれを掴み取ると、留め紐を外して雑に羊皮紙を広げる。
そしてその中に書かれた中身を見て僅かに表情を変えた。
「これは……どういうつもりだい」
エリオスは低い声でエリシアにそう問いかける。傍らのアリアはそんな彼の態度にたまらず口を開く。
「ソレに何が書いてあるって言うのよ——?」
そんなアリアの問いかけに、エリオスに代わってエリシアが応えた。
「それはね、最高巫司サマからのお手紙――親書だよ」
今更ですけど、エリオスとエリシアって名前が似てるんですよね。出してからしばらくして気付きました。別に意図的なナニカとか伏線じゃないです。
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