Ep.4-55
「――暗黒大陸の方で不穏な動きがある。戦力が必要だから君たち二人は戻ってこいってさ」
あまりにもあっけらかんとした軽いエリシアの言葉に、レイチェルは一瞬硬直する。何を言っているのか、冗談じゃないのかと思考が錯綜しているのが見て取れるような表情だった。
「え……あ、っと……それは……」
途切れ途切れに、あえぐような言葉を漏らすレイチェル。しかし、さすがは聖騎士の長と言うべきか、すぐに正気を取り戻して、ひったくるようにエリシアの突きつけた羊皮紙を手に取る。そして食い入るように羊皮紙に記された主人からの言葉に視線を注ぐ。
「——最高巫司猊下はなんと?」
壁際からザロアスタがレイチェルに問いかける。レイチェルは飲み干すように文字列を読み切ると、深いため息を一つ吐いた。
「概ねはエリシア殿の言うとおりです。暗黒大陸の魔王が軍備を整えているらしい。聖教国への配下の魔物たちの襲撃も、我らがレブランクへと出立してから激しくなっているそうです」
暗黒大陸——それはレブランクやベルカ公国、アヴェスト聖教国のあるミストラス大陸から海を隔てて北方にある大陸だ。
大地そのものが魔力に満ち溢れて、魔物や動物、植物、果ては土や水さえも他の大陸とは全く異質なものと成り果て、人類が進出しているのを拒んでいるのだと言う。
そんな謎に満ちた人類不可住領域であるという事実が、その大地が暗黒大陸と呼ばれる理由の一つだ。
しかし、その呼び名の理由はそれだけではない。
それはあの土地が、神代から続く長い歴史の中で、神の秩序のもとに成り立つ世界に牙を剥いてきた多くのモノたちが幾度となく根城としていた土地だからだ。
魔物、魔人、ただの人間、その他――種族も時代も異なるが、神に歯向かい、神のための秩序を敷く聖教国に牙を剥いた者たち。彼らの多くが、神の神秘も秩序も届かないこの魔性の大地を根城として選んだという歴史。それもまた、彼の地が「暗黒」大陸と呼ばれる理由の一つだ。
そして今、この時代においても「神に刃向かう者」は存在し、実際に聖教国が敷く秩序を掻き乱さんとしている。
それが魔王——暗黒大陸に居を構え、現地の魔物たちを統制し軍備を整え、ミストラス大陸にさえ侵攻しつつある人類共通の脅威。各国が擁立していた「勇者」たちの倒すべき敵でもある。
「魔王め……オオ、何と卑怯なことを……」
レイチェルが代弁した最高巫司の言葉に、ザロアスタはそんな反応を示す。そんな二人に目を向けながら、エリシアは改めて告げる。
「ま、そういう訳だからレイチェルちゃんたちは聖教国に戻っちゃってよ。後のことはボクがやるからさ」
「しかし——」
エリシアの言葉にレイチェルは躊躇いがちに視線を上げる。彼女が見つめる先には、エリオスがいた。
「あの男が自分たちを生かして帰すとは思えない」——そんな思考が透けて見えるレイチェルの表情。
しかし——
「——帰るのならどうぞご自由に」
エリオスは紅茶を啜りながらレイチェルの視線に軽くそう答えた。
FGO2部6章後編をプレイする関係で投稿時間等乱れるかもです




