Ep.4-52
部分数もついに200を超えまして、目次が3ページ目に到達しました……
「ふふ。悪いけど、ここはボクに免じて三人とも矛を収めてもらいたい」
「——免じて欲しいのなら、何処の誰か名乗るのが先じゃないのかな?」
自分の首に剣を当てている女性に向けて、エリオスは腹立たしげな声でそう問うた。その言葉に、女性は「ふむ」と鼻を鳴らす。
「それもそうだね。じゃあお応えよう——」
そう言って女性はエリオスの首筋に剣を当てたまま、彼の背後から進み出て、その姿を現す。
森の暗がりから浮かび上がったのは、流れるような紅玉色の赤い髪を後頭部で一つにまとめた美女。快活で人懐っこい笑みを浮かべた彼女は、エリオスとシャールにそれぞれ視線を送ると、花の咲くような可愛らしい笑みを浮かべる。
「ボクの名はエリシア、エリシア・パーゼウス——気軽にエリーと呼んでくれてもいいよ。そして、何者かと問われれば、ボクは聖剣ヴァイストに選ばれた勇者だ」
女性——エリシアは空いた左手を胸に当てて、軽く会釈をしてみせる。どこか能天気さも感じさせられるその動作と笑顔に、シャールはぽかんとした表情を浮かべる。
しかし次の瞬間、シャールは彼女の言葉の意味を理解して表情を硬直させた。
「ヴァイストに……選ばれた?」
シャールは信じられないと言う表情を浮かべる。
清浄なる炎を司ると言われる聖剣ヴァイスト。千年を超えるアヴェスト聖教の歴史上、唯一自身の主人を選定したことがないとされ、神殿の地下にある聖遺物保管庫『墓所』の最深部に保管されていると言う謎に包まれた聖剣。
エリシアは自身こそがその主人だと宣言したのだ。
シャールは困惑し、そしてザロアスタの方を見た。もし彼女の言葉が虚言ならば、彼が黙っていない——きっとシャールにそうしたように怒り狂い、斬りかかるだろうと思ったから。
しかし、ザロアスタは沈黙したままだった。それどころか、エリシアの持つ聖剣の赤い輝きを映したその瞳には、陶酔すら浮かんでいる。
「オオ、それが『焼浄』のヴァイストか……オオ、オオ! 烈火のように変幻するその輝き……美しいィィッ!」
ザロアスタは極限まで高まった感情が堰を切ったかのように、感嘆の叫びを上げる。それを見て、シャールはようやくエリシアの言葉が真実であるのだと確信する。
「聖剣ヴァイストに選ばれた人間が現れただなんて、聞いてないんだけど」
エリオスは不機嫌そうにそう言いながら、エリシアを睨む。エリシアはそんな彼に向けても微笑んで見せる。その笑顔には一切の裏も邪気も無い。そんな彼女の顔に、エリオスは小さく舌打ちをする。そんな彼の言葉に、今度はレイチェルが応える。
「当然です。彼女の存在は聖教国の最高機密ですから——故に分からない。どうして貴女がここにいるのです?」
レイチェルは怪訝そうな瞳で、悠々と笑みを浮かべる「勇者」を見つめる。エリシアはそんな彼女に向けて笑う。
「——君のご主人様、最高巫司猊下からの頼み、もといご命令さ」
茶目っけたっぷりに、エリシアはそう言って笑った。
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