Ep.4-44
エリオスの足元から伸びる黒い糸に操られたレイチェルの構えた聖剣。その黄金色の刀身には、べっとりと赤黒い血がついている。レイチェルがその剣を振るい、その鉄臭いにおいが鼻をついた瞬間、シャールは何かを悟ったように表情を驚愕、そして怒りに染める。
「貴方は――貴方は何というコトを……!」
「あは――分かっちゃった?」
エリオスは楽しそうにからからと笑う。そんな二人のやり取りをザロアスタは理解できていないようで、両者の顔をかわるがわるに見遣る。
シャールはエリオスを睨みつけながら、糾弾するような声で告げる。
「――エリオス、貴方はよりによってその聖剣で、彼女に彼らを殺させたんですね」
「――な!?」
シャールの言葉にザロアスタは驚愕し、そして表情を歪める。シャールはそんな言葉を突きつけられてなお、嫣然と笑っているエリオスを強く睨みつけた。
「――私のこの答えは間違っていますか。エリオス」
「いいや――大ッ正解だとも。さすがシャール。私の側にいるだけあって、私の思考をしっかりとトレースできているようで何よりだ」
そう言ってエリオスは指を鳴らす。その瞬間、レイチェルを縛る糸は全てエリオスの影の中に飲み込まれていく。その光景を見て、シャールは歯噛みする。
「——『憂鬱』の、権能……ッ」
「その通り。基本的には槍みたいに使ってるけど、この権能の本質は『影を操る』コトだからね。鋼の槍のようにも、しなやかな鞭のようにも——そして鎖や操り人形の糸のようにもできる」
エリオスは足元で様々な形に影を変えてみせる。シャールはそんな彼の楽しそうな表情を忌々しげに見つめる。ザロアスタも、シャールの言葉の意味を咀嚼できたのか、怒りの表情を浮かべる。
そんな二人の表情と、向けられた敵意にエリオスは蕩けるような恍惚の表情を浮かべる。
「ふふ、いいねいいね――ああ、彼女の絶望的な表情も最高だったけど、君たちのその表情も喜劇の余韻としては最高だ!」
「この、外道がッ!」
「は、今更かい聖騎士殿。私は最初から徹頭徹尾下衆で外道な悪役サマだよ? 嗚呼、嗚呼! 今思い出しても最高の喜劇だった! 信頼していた騎士団長サマに聖剣を向けられて殺されていく彼らの絶望に歪む顔が! 身体を引きちぎられるような激痛に顔を歪めながら、悲痛な声で『逃げろ』だとか言いながら、次々に彼らの四肢を削いで首を刎ねていった彼女の表情も――! ああ、目を閉じるだけで瞼の裏によみがえって来る!」
エリオスは目を閉じて、その瞬間の光景を何度も舐り味わい反芻するかのように、エリオスは自分の身体を抱きしめて肩を震わせる。
その瞬間、白刃がエリオスの首元に迫る。しかしそれはエリオスの足元から伸びた黒い槍に阻まれる。
「――人が楽しい思い出に浸っている最中に不躾だなあ、聖騎士殿」
「黙ァれィ! 貴様のその首、叩き落してやるわァ!」
そう言って、ザロアスタはエリオスに吠えた。
エリオスがどんどん変態じみていく……




