Ep.4-43
「ふふ、玩具は楽しく扱わなければ意味がないからね」
そう言って、エリオスは右手で口元を押さえて笑いを押し殺しながら、纏った外套をひらりとめくって見せた。そして、外套の内側に隠し持ったモノをシャールたちの目の前に放り投げる。
「——ひ」
目の前に転がってきたモノを見て、シャールは思わず息を呑む。それは泥と血に塗れた、黒い四つの塊。ザロアスタとレイチェルに付き従っていた聖騎士たちの生首だった。
「なんたることか——我が同胞が……」
流石のザロアスタも、これには声を震わせる。
聖騎士たちの生首には、苦悶と絶望、恐怖が色濃く刻み込まれている。そんな彼らの四つの首は、彼らのうちの誰かの細身の剣でまとめて串料理のように刺し貫かれている。
「アハハハハ! なぁにその顔。間抜けすぎて笑っちゃうじゃない。何、私を笑い死にさせる気?」
エリオスの玩具にされた四つの首に視線を奪われるシャールとザロアスタ。そんな彼女たちを見て、エリオスはいよいよ笑いを堪えられなくなったようで、高い笑い声を辺りに響かせる。
そんなエリオスに向けてザロアスタは怒鳴る。
「貴様ァ! 我が同胞を、このような哀れな姿に……ッ! 恥を知れィ!」
「恥を知るのは彼らの方さ——君もそう思うよねぇ、ご主人様?」
そう言ってエリオスはちらと背後を振り返る。背後の茂みからは、先程まで馬車を引いていた黒い痩せこけた馬の背に乗ったアリアが現れる。ほんの少しだけ乱れた髪を手櫛で整えながら、冷たい瞳で転がった四つの首を見下ろしていた。
そんな彼女にエリオスは慇懃に腰を折りながら、シャールとザロアスタに突き刺すような視線を投げる。
「彼らってば、私があの場所から離れたら、こともあろうにアリアに手を出そうとしてさ。うーん、やっぱり許せないよねぇ。そんなことされたら従者としては、殺すしかないよねぇ——だから、さ」
エリオスは一旦そこで言葉を切って、その舐るような視線をシャールたちの足元でボロ雑巾のようになりながら転がるレイチェルに向ける。
「彼らが慕ってた玩具を使って殺してあげたのさ」
エリオスはそう言って底意地の悪そうな笑みに唇の端を吊り上げる。そしてぱちんと指を鳴らしてみせる。
その瞬間、転がっていたはずのレイチェルが急に立ち上がる。しかし、それは彼女が回復したという意味ではないことを、シャールはありありと見せつけられる。彼女の四肢の関節、首、指の先々に至るまで黒い糸のようなものが走り、それが彼女の身体を無理やり立たせているのだ。
「ほら、凛々しく立って見せてよ」
エリオスがそう言った瞬間、レイチェルの身体の各部に絡み付いた黒い糸が張り詰めて、彼女の身体を無理やりに動かす。
「ぐぅぅ……ッ! あァ!」
骨が折れているのだろう、無理やりに四肢を動かされたレイチェルの口から苦悶の声が溢れる。しかし、彼女の身体はそんな彼女の意思や痛覚を完全に無視して、聖剣を握りしめてその鋒をシャールとザロアスタに向けて、今にも斬りかかりそうな体勢を取る。
「あはは、カッコいいよ騎士様ぁ!」
レイチェルを傀儡の如く操る黒い糸の先で、エリオスは手を叩きながら彼女の姿を嗤っていた。
だ◯ご四兄弟……




