表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
192/638

Ep.4-42

「あれ、君たちこんなところで何やってるの?」


厭に陽気な声が響く。土煙が晴れた先にある二つの人影。荒い息を漏らし、顔を血の色に染めた女騎士レイチェルと、その白金髪を掴んで彼女に跪かせるような姿勢を取らせるエリオス。


「——何、やってるんです……貴方は」


シャールは思わず震える声を漏らして問いかける。そんな彼女にエリオスは、口の端を釣り上げてにんまりと笑ってみせる。


「何って——屠殺だよ?」


「と、さつ?」


「そ。殺処分って言い換えても良いけど——私的には屠殺(こっち)の方が好みかな?」


からからと笑ってから、エリオスは跪くような姿勢のレイチェルの脇腹を、その左脚を大きくしならせるようにして蹴り込む。その瞬間、レイチェルの鎧の脇腹部分が砕けたかと思うと、彼女の身体は大きくバウンドし、宙を舞い、転がる。シャールは彼の細い脚から繰り出されたその一蹴りの重さに驚嘆する。

土を巻き上げながら転がり、ようやく目の前で停止したレイチェルの悲惨な姿にシャールは息を呑む。

凄絶な苛虐に晒されたであろうその全身からはぐったりと力が抜けている。

重厚な白い鎧はところどころが砕けて、中の鎖帷子や衣服なども破け、素肌が顕になっているし、残った鎧も傷だらけでいつ砕けてもおかしくない。波打つような美しい金髪も、凛々しい顔も血と泥に塗れてしまっている。砕けた鎧の隙間から覗いた素肌は青紫に変色していて、エリオスから受けたであろう攻撃という名の一方的暴力の苛烈さを物語っている。

あまりの凄惨さに言葉を失ったシャールに追撃するように、エリオスは愉悦の言葉を続ける。


「ソレ、私のことを最初は捕らえようとして、挙句ちょっと相手をしてあげたら『危険だから殺す』だって。全く、人の命や尊厳をなんだと思っているのかな」


文字面だけならば不満たっぷりな言葉——しかし、それを口にする彼の表情もその声音も、ひどく愉しそうだった。きっと、彼はそう口にすることでシャールやザロアスタさえも玩弄しているつもりなのだろう。魂を舐るような声でエリオスは続ける。


「だからね、やっぱり奪おうとするのだから、逆に奪われるのも承知の上だと思って。尊厳を叩き壊すように飛びっきり無様に、苦痛に満ちた形でその命を奪ってあげようかと思ってさ」


「貴方は——貴方という人は!」


「ちょっとちょっと、今回は私被害者だよ? 勝手に押しかけられて、捕まりそうになって殺されそうになって——そんな不躾な賊をどう処断しようと、被害者たる私の自由じゃない?」


今度は本当に不服そうな声で、シャールに向けて唇を尖らせる。そんなエリオスの言葉にシャールは歯噛みする。

そんな時、ザロアスタが不意に口を開いた。


「この血の付き方——レイチェル卿の(モノ)だけではないな。貴様、何をした?」


ザロアスタはレイチェルを見下ろしながら冷静に検分し、そうエリオスに問うた。その問いかけに、エリオスはひどく意地の悪そうな笑みを浮かべて見せる。


「ふふ、玩具は楽しく扱わなければ意味がないからね」


そう言ってエリオスは笑いを堪えるように口元を押さえた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ