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Ep.4-39

「さァ、この首をその剣で刎ねられよ」


シャールの目の前でどっかりと座り込むと、ザロアスタはそう宣う。その言葉にシャールは硬直する。

何かの冗談だとも思ったが、自分を見上げるザロアスタの瞳は真剣そのもので、シャールは激しく動揺する。


「——ど、どうして……そんなこと……」


「決まっているだろう。我が罪の清算のためよ」


「——罪?」


シャールは彼の思考が全く理解できなかった。確かに彼は、自分に向けて斬りかかってきたし、色々とシャールの傷つく言葉も吐いていた。しかし、その狂信っぷりは理解できずとも、シャールは彼の行動は彼自身の信仰ゆえであるとシャールは分かっていた。何より、それが命を以って償うべき罪であるとは思えなかったのだ。

動揺し、混乱するシャールを見てザロアスタは深めに息を吐く。そして語る。


「我輩は神の奇跡たる聖剣が認めた其方を、盗人と糾弾し殺そうとした。これは、神々の御意志に背く大罪——審問の必要すらないほどのな。故に、其方の手で斬刑に処して貰いたい」


「——ッ! そんな、私はそんなの望んで——」


「其方が望まずとも! 神の法理に従えば、我が罪は死に値する! 我輩自身がそう信ずるが故にィ!」


ザロアスタは吼える。その周囲をびりびりと震わせる声の圧に、シャールは思わず口をつぐんだ。ザロアスタは本気だ——本気で自分を殺せと言っているし、本気でそれを望んでいる。それこそが自らの求道なのだと心から信じているのだ。

ならばシャールはどうするのがいいのだろう。

——出来ることならばザロアスタを殺したくはない。無抵抗で、自分に対する敵意も悪意もない人間を傷つけることなど、ましてや殺すことなんて出来るはずもない。

何より、それ以上に彼女自身知っているのだ。彼が狂人だったとしても、悪人ではないということを。彼は彼の奉じる教義と信念、そして自身の職務に対する姿勢という計算式から導出された結果を実行したに過ぎない。

たとえそれがどれだけ危険で狂気的であったとしても、シャールはそれに従っただけの彼が裁かれるべき咎人とは思えなかった。

その一方で、こうも思う——では、自分がザロアスタを殺すことを拒んだらどうなるのかと。彼は執拗にシャールに迫るだろうが、例えばシャールがこの場から逃げ出してしまえばそれを追ってまでは来ないかもしれない。

だが、自らその首に剣を突き立てるなら首を括るなり、どうしたって彼は死を選ぶのだろう。その時、彼の信念の下「正しく死ねなかった」という想いを抱きながら人生最後の瞬間を迎えるのかもしれない。

きっと、それは辛く苦しいものだ。死の瞬間が、後悔と苦痛と自罰の感情に満ちているなんて、想像するだけで胸が掻きむしられそうだ。


「私は……」


だとするのなら——シャールは思う。今自分は此処でで、この老騎士の人生を彼が望む形で断ち切ってやるべきなのではないかと。

それを自分が手を汚したくないからといって逃げ出すのは、無責任なのではないかと。

シャールはアメルタートを強く強く血が滲むほどに握りしめた。

episode4は果たしてどこまで続くのやら……


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