表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大罪踏破のピカレスク~人間に絶望したので、女神から授かった能力で誰よりも悪役らしく生きていきます  作者: 鎖比羅千里
Episode.1 The fate of people who Enter into the palace of Villain...
19/638

Ep.1-17

「な、なんで——アメルタートが‥‥‥」


湧き上がる若草色の力にシャールは混乱する。しかし、今は躊躇っている状況ではない、動かなくては。気のせいか握りしめた刀身の重みも軽やかに感じる。

シャールは慎重にエリオスとの間合いを詰める。エリオスは逡巡したように表情を歪めたまま動かない。しかし、それが彼にとって致命的な油断や隙ではないことはシャールにも分かっていた。ルカントを一瞬で殺し、アグナッツォの急襲を防ぎ切った彼にとって非力な小娘が慣れない大剣を振り回したところで、脅威にはなりえない。一瞬で決着がついてしまう、彼を倒すことはできない。

だが、シャールは気づいていた。自分は目の前の魔術師を倒す必要はない。自分に求められているもの、課せられた役割はただ一つ。時間を稼ぐこと――リリスが転移の術式を完成させるまでのほんのあと数十秒。彼の関心を自分に引きつけられればそれでいい。


(アメルタート、悪いけど私に付き合って頂戴)


そう念じると、アメルタートの刀身がさらに光り輝き、その白刃にはきらめく唐草模様のような呪刻が広がり繁る。そして次の瞬間、刃の周りの空気がぐなりと歪んだ。


「え——」


「な——?」


この瞬間、初めてエリオスはその表情に焦りを浮かべた。

刀身の周りから、瀑布のような勢いで太く長い緑の槍が何本も、エリオスの喉元に向かって伸びたからである。シャールにとっても、エリオスにとってすら予想外の、意識の外からの攻撃。エリオスは思わず一歩後ずさり、手で顔を覆う。


「——ッ『❘踏破するは怠惰の罪《Realize My Sloth》』!」


エリオスは叫ぶ。するとその瞬間に、エリオスの首を守るようにその目の前に黒い裂け目が現れて、彼の喉元へと飛び掛かってきた緑の槍はその黒洞の中へと消えていった。しかし、いくつかの槍はその黒い大口から逃れてエリオスの腕や足を掠める。黒い服が裂け、白い肌とにじんだ血が露わになる。


「——ッ」


エリオスは痛みに顔を歪める。大した傷ではないだろうが、完全に予想外だったからだろうか。エリオスはその場でよろめきながら、ぎろりとシャールを睨みつけた——いや、違う。彼が見ているのはシャールではない。その後ろ——


「リリス様——」


シャールが振り向いたその瞬間、その視線の先で紫紺の光が弾けた。魔法陣からあふれ出る光の奔流の向こうで、リリスの泣きはらした顔が一瞬だけ見えた。何かを必死で叫んでいたが、その音は意味を成す間もなく消えていく。瞬きの間に、ついさっきまでいたはずのリリスとミリアの亡骸は消え去っていた——どうやら転移の魔術は成功したらしい。

これで務めは果たせた——シャールは剣を下ろしてエリオスの方へと向き直る。


「——どうやら君の蛮勇は実を結んだようだね。腹立たしい限りだ」


エリオスは憮然とした表情で、傷口を抑えながらつぶやくようにそう言った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ