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Ep.4-39

高く軽い音と共にザロアスタの握っていた剣の刀身が砕けて鉄の欠片と成り果てる。聖教国の聖騎士の使う剣はすべからく、神官たちによる強化の魔術が込められている。その効果は絶大で、たとえ大きな岩を斬ろうとも、鋼鉄の鱗を持つドラゴンを相手にしようとも、その剣は刃こぼれすることはあっても折れ砕けるようなことはありえない。

すなわち、今目の前で自身の剣が砕かれたというのは、ザロアスタにとっては驚くべき事態のはずだった。しかし、ザロアスタは驚くでもなく、穏やかさすら感じる表情でそれを見ていた。


「——嗚呼、見事だ」


先程までの獣のような咆哮とは打って変わって、穏やかな声で、何かを愛おしむようにザロアスタは再び剣を交えた相手——シャールを讃える。

対するシャールは、ザロアスタの剣が砕けたのを認識した瞬間後方へと飛び退き、彼の更なる追撃に備える体勢を取る。ザロアスタの腰には、まだ2本の剣がある。それに、たとえ剣を全て失ったとしてもザロアスタは敵対者——即ち異端にはその爪も歯も彼が帯び、彼を構成する何もかもを使い潰してでも食らい付いてくるものだと、シャールは考えていた。

しかし、ザロアスタは動かなかった。

地に落ちた無残な鉄のかけら達、自分の手に握られた剣の柄、そしてシャールが握りしめたアメルタートに——ザロアスタは代わる代わる視線を向ける。その表情は穏やかで、寂しさと喜ばしさを同居させたような慎ましやかな色が浮かんでいる。シャールは先程までのザロアスタの狂乱ぶりが脳裏にチラついて、その表情からも彼の思考を推測するのに難儀する。

そんな対応を測りかねていたシャールに先んじて、ザロアスタが口を開いた。


「我が剣を打ち砕きし者——まずは我が非礼を詫びよう」


「え——っと、それって」


「このストラ・ザロアスタ。其方が正しく聖剣の所有者であることを認めよう」


ザロアスタは真摯な表情で真っ直ぐシャールを見据えてそう言った。


「え、どうして……急に」


シャールは未だにこの状況が理解しきれずに、動揺の言葉を口にする。そんな彼女の言葉にザロアスタはふむと鼻を鳴らす。


「ふむ、自分のなしたコトの意味を理解しておらなんだか。なるほど、聖剣に導かれるというヤツか——レイチェル卿も同じようなことを、かつて言っていたな」


ザロアスタはそう言ってから、シャールの握りしめた未だに輝きの残る聖剣を指さした。


「其方はその聖剣、アメルタートの権能を引き出した——我輩の渾身の一刀を凌ぎ切り、我が剣を打ち砕いたのがその紛うことなき証拠よ」


そう告げたザロアスタの聖剣とシャールを見つめる瞳は、どこか愛おしげだった。

ザロアスタの言葉に、シャールは思わず顔が熱くなった。認めてもらえたのだ——自分がこの聖剣を持つことを。ザロアスタに、そしてアメルタート自身に。

そんな嬉しさと気恥ずかしさの混ざり合う感情の渦の中にいたシャールの目の前で、ザロアスタは地面にどっかりと座り込み、シャールを見上げる。


「——え、と。ザロアスタ様?」


シャールは彼の行動の意味を理解しかねて疑問の声を上げる。そんな彼女に向けて、ザロアスタは訥々と告げる。


「さァ、この首をその剣で刎ねられよ」

最近小説投稿する前に寝落ちしがち……良くないですね……

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