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Ep.4-37

金属を打ち鳴らす音が幾重にも折り重なって森に響く。激昂し、動揺したザロアスタは重いロングソードを乱暴に振り回すようにして何度も何度もシャールに向けて叩きつける。

しかし、その一撃一撃をシャールは冷静に、素早く聖剣で打ち払っていく。


「何故だ、何故だ、何故だァァァ!」


何度も重ねて繰り出されるザロアスタの剣戟——そのどれ一つとして、シャールには届かない。仮にも老いたとは言え、聖教国の騎士団の一つを任される騎士長である自分が、一介の村娘にあしらわれているという現実にザロアスタは吠える。それは悔しいだとか、憎らしいというのではなくただ純粋な「何故」という疑問——何故、自分の剣がこんな矮小で華奢な少女に止められるのか。どうして彼女はこんなにも剣を振るえるのか。あの大きな剣を、軽々と。

そんな彼の脳裏に、一人の騎士の姿が浮かぶ。彼の騎士も、女だてらに重い白金の剣を軽々と操ってみせた。聖教国の騎士の中で唯一自分よりも高い階位を持つ女騎士団長——レイチェル・レオンハルトの姿が、ザロアスタの脳を掠める。

だが、ザロアスタはそんな思考を振り払うようにかぶりを振る。馬鹿な思考(コト)だ——目の前の罪人が、彼女と同じなはずがない。神の奇跡に選ばれてなどいるものか。


「——認めぬゥゥ、認めぬぞォォォォ!」


ザロアスタの剣戟はその激しさを増す。まるで吹き荒れる暴風雨のような白刃の乱舞。しかし、その一方で繰り出される一撃一撃の精度は確実に落ちていた。もはやシャールですらもその軌道やタイミングを予測するのが容易なほど。単なる勢いだけの連撃と成り果てたザロアスタの剣は次第にシャールに押されていく。

対するシャールは、握りしめたアメルタートの輝きが増すごとに、その重みが軽くなっていく。いまや、シャールにとってアメルタートは腕の一部のような感覚で、思うがままに軽やかに振るえている。

しかしそれでも、着実にアメルタートを振るシャールの腕には疲労が溜まっていく。シャールの細腕では、ザロアスタの剣戟を防ぎ続けるのは、精々あと5分が限界だ。対するザロアスタには疲労の色は見えない。このまま戦い続けてもこちらがジリ貧だ。

いち早く、何らかの形で決着をつける必要があるのは明白だった。


「——あなたの力。もっと私に見せて、アメルタート」


シャールは密やかに祈るような声でそう唱える。そして、イメージする。

太く、靭く。千を越える年月を経ながら、泰然とあり続ける大樹の姿を。それは土を裂き、岩を飲み、鉄の刃すらも歯が立たない。そんな木の姿をイメージする。そんな大樹なら、ザロアスタの剣戟さえも凌ぎ切れるような気がした。

その瞬間、不意にシャールの胸の内に詞が浮かび上がる。点のように浮かんだ言葉は、線を繋ぎシャールの唇から紡ぎ出される。


「——『萌芽』の理を司る聖剣に(こいねが)う。大地に満ちて、生命を包む御手を私のために差し出して」


「——馬ァ鹿な……これはァ……これはァァ!」


胸の詩を謳いあげるシャールの姿に、ザロアスタは瞠目する。溢れだす静謐にして涼やか、生命力に満ちた魔力。そしてその中心にある少女の祈る姿。

嗚呼、これはまるで——まさしく……

ザロアスタの剣戟が自然と弱まっていく。それを捌きながらシャールは胸の中から溢れ出す言葉を謳い切る。


「——土も岩も支配し、時を超えるその靭さで私の道を切り拓いて。大権能、収束励起」

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