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Ep.4-35

「四肢を削げば大人しくもなろう――我輩が救うのはその魂のみ。肉の器が満足しているかなどは些事である、か」


ザロアスタはそう低く唸りながら、シャールの方を振り返りさの切先を彼女の喉元に向ける。

彼の発した言葉の剣呑さの一方で、シャールはにんまりと笑ってみせた。

未だに彼の誤解は解けていないが、彼の敵意が自分に向いた——これでようやく、彼との()()が出来ると言うものだ。

シャールは悪戯っぽく微笑んで見せながら口を開く。


「出来るものなら——」


「抜かせ小娘ェェェィ!」


雄叫びを上げながら、ザロアスタは大きく振りかぶった剣をシャールの肩口に向けて叩き下ろす。その一撃を、シャールは後方に飛び退いて間一髪で回避する。

その瞬間、獲物を失った剣戟は地面へと叩きつけられる。

その瞬間、ぐらりと地面が揺れた——否、割れ砕けた。ザロアスタの剣戟と地面の接触点を中心に、ガラスの窓が割れるようにヒビが広がってシャールの足元まで崩壊が広がる。

シャールはその崩壊に足元が揺らいで、体勢を崩す。


「——そこォォ!」


ザロアスタはそんな彼女の隙を見逃さず、彼女の太腿の高さで剣を横に思い切り薙いだ。脚が叩き斬られるかと思われた瞬間——


「——『風よ、羽となれ(フラヴァス)』!」


その瞬間、シャールの身体がひらりと浮いてザロアスタの剣を間一髪で逃れた。


「ヌゥ——!」


シャールの身体は大きく弧を描きながら後方へと飛んでザロアスタから距離を取る。そして、少し離れた地面にふわりと着地した。


「——ただの小娘と侮っていたが、貴様も魔術師か」


「魔術師なんて名乗るのは烏滸がましいです——これは単に、最高の魔術師に手解きを受けた成果です」


シャールはバクバクと鳴り響く心臓の鼓動と動揺を覆い隠さんと、らしくもない不敵な笑みを浮かべてみせた。

そう、これはリリスがエリオスの館に滞在していた時に、彼女から手解きを受けた魔術。魔術師としては初歩的な、短距離飛行の魔術だった。

単純な魔術ではあるが、緊急回避や逃走、撹乱。逆に一瞬で間合いを詰めたり、予測不可能な動きで相手を翻弄してみたり——使い方の幅広い魔術だと言ってリリスはシャールにこれを教えてくれた。

魔力の消費量も少なく、一般人ゆえに保有する魔力量のあまり多くないシャールにも使いやすい代物だ。


「貴方とまともに打ち合っても、私に勝ち目はありませんから——絡め手禁じ手お構いなしで行かせていただきます」


「ハ! ——笑止笑止笑止笑ォォゥ止ィィィ! 傀儡ごときに遅れをとる我輩ではないわァ!」


ザロアスタはそう叫びながら、地面を強く踏み締めて、ずんずんと熊が森を進むが如くシャールに迫る。他にもいくつかリリスから学んだ魔術はある。でも、きっとそのいずれもザロアスタを止める決定打にはなり得ない。彼を止め得るのは——


「——きっと貴方を諭すことができるのは……」


シャールは迫るザロアスタの足音を聴きながら小さく呟いきながら、聖剣の柄を強く強く握りしめる。


彼女の掌がひどく熱くなった。

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