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Ep.4-33

「待っているがいいッ! 其方は、我輩が必ず! 解き放ち、神の御許へと送ってやるからなァァ!」


ザロアスタは涙を溢れさせながらそう叫ぶと、シャールに背を向けて地面をずんずんと踏み鳴らしながら、来た道を引き返す。アリアとエリオスのところへ行くつもりなのだと、シャールは直感した。反射的にその背に追いすがろうと脚を一歩進めたところで、シャールは踏みとどまる。

――彼を止める理由が自分にあるのか、そんな疑念が胸の中を掠めたから。

ザロアスタがエリオスを倒せるか否か、そこは問題ではない。

ザロアスタがエリオスに敗れて殺されたとしても、シャールとしては自分を殺そうとしている狂った老騎士という問題が解決する。それは、彼女にとっては好ましいコトだろう。

逆にザロアスタとレイチェルがエリオスを破り、アリアともども殺したとしよう。そうだったとしても、エリオスという悪役(ヴィラン)が打ち破られるという結果は、シャールにとって好ましいコトだ。彼女の目的である「エリオスに一矢報いる」という願いは果たされることが無くなるが、それに拘泥して彼という悪役を倒せる機会を逸することは、世界に対する背信ということになるだろう。


「――でも……」


胸に痞えるナニカがシャールの中にはあった。

このままザロアスタを行かせてしまいたくないという思い。それが一体何なのか、シャールは自分自身に問いかけてみる。

自分は何か心配しているのか? エリオスのコト、アリアのコト? 違う、そんなはずはない。彼らは打ち倒すべき敵だ。それは既に確認したではないか。

では、ザロアスタについてか? 否、シャールには彼の命を憂う理由が無い。いっそ彼が死んでしまえば、自分の命は助かるのだから心配する理由は無いだろう。

つまり、この焦燥にも似た感情は心配とは違うのだろう

では、これは何なのか。


「あ……そっか……」


不意に何かに気が付いたように、ぽつりとシャールは零した。

そしてシャールは自分が握りしめた聖剣に視線を落とした。その途端、シャールの裡にあった焦燥はより強くなった気がした。


「私、嫌なんだ……」


そうだ、嫌なんだ。

このまま自分についてザロアスタが勘違いをしたままに死んでいくのも、誰かを殺すのも嫌なのだ。彼に思い知らせてやりたいのだ。自分はこの聖剣を自分の意思で握りしめているのだと。そして、自分がこの聖剣を持つことを認めてくれる人がいるということを。

シャールは聖剣を握りしめると、一息にザロアスタの背に向けて駆け寄る。


「――娘よ、そこでじっとしておれィ。我輩が全てを為済まして、汝の魂を浄化すれば汝はなんの憂いもなく主の御許へと行けるのだ。其方を今斬ってしまえば、その魂は澱んだままだ」


「いいえ、いいえ、いいえ! ザロアスタ様、私は正気で洗脳なんてされていない! 私は自分の意思でこの聖剣を握っているのです」


「それはあの魔術師の洗脳だ、貴様は自分の思考を誤認しているのだ」


「――ふざけないで!」


シャールが吠えた。びりびりと周囲の空気を震わせる彼女の声に、ザロアスタはぴたりとその歩みを止める。振り返らない彼にシャールは聖剣の切っ先を向ける。そして叫んだ。


「この聖剣を握るのは私の意思、私の決意――罪だというなら私の罪です。全部全部私のもの。それを勝手に奪わないで!」

明日は1日所用があるので、投稿時間がとんでもないくらいずれると思いますが、ご了承ください(今更な気もしますが)。


毎度のお願いではありますが、拙作をお気に召していただけた方は評価、感想、ブックマーク、レビュー等よろしくお願いいたします。

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