表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大罪踏破のピカレスク~人間に絶望したので、女神から授かった能力で誰よりも悪役らしく生きていきます  作者: 鎖比羅千里
Episode.1 The fate of people who Enter into the palace of Villain...
18/638

Ep.1-16

「リリス様、逃げてください」


シャールは呟くようにそう言った。その言葉に、リリスとエリオスは驚いたような表情を浮かべる。そんな彼らをよそに、シャールはさらに続ける。


「リリス様なら、転移の魔術で撤退できるはずです。ミリア様を連れ帰ってあげてください」


転移の魔術――それもまた、稀代の天才魔術師たるリリスが行使しうる、時間と空間と自身の存在を捻じ曲げる超一級の魔術の一つであった。


「アナタ、何言って‥‥‥第一、転移の魔術は展開までに時間が――」


「だから、私が‥‥‥私が時間を稼ぎます」


シャールはそう言って、引きずるようにして片手に掴んだルカントの聖剣を構える。ずっしりと重い鉄の塊。その重さに、シャールはルカントの姿を思い出す。


「そんな、だって……ダメよ、出来ない……そんなことしたら私……」


頭を抱えて、懊悩するリリス。どうしてこんなに彼女は躊躇うのだろう。彼女たちにとって、私は戦力にならない、取るに足らない存在だったはずなのに。何故今更——

シャールはそんな思考を振り払うように、頭を振ると叫ぶ。


「いいから! 逃げて!」


「——ッ!」


シャールの言葉に弾かれたように、リリスは杖を取り呪言を唱え始める。ミリアの亡骸を抱き寄せて。

そんな中、手を打ち鳴らす乾いた音が響く。


「感動的だね。でも、黙って帰すとでも思っているのかな?」


エリオスがシャールたちを舐るように見ていた。その言葉の一音一音にねっとりとした邪気が宿っている。その声に、シャールは心臓を掴まれたかのような息苦しさの錯覚に陥る。

聖剣を強く握る——すると、不思議と気が楽になった。シャールは深く息を吐いてから、エリオスを睨みつける。


「そんな都合のいいことがあるとは思ってません。でも、これが私の、力のない私の役目だから――!」


虚勢を張って啖呵を切るシャール。エリオスは一瞬表情を歪めたが、直ぐに口の端を嗜虐の愉悦に歪ませる。


「――君のそれは勇気とは違う、蛮勇あるいは無謀ってやつだぜ?」


憐れみとも嘲笑ともつかない色で目を細めて、エリオスは言い放つ。シャールはそれには答えずに、ちらと背後のリリスの様子をうかがう。彼女は涙をボロボロと流しながら、ミリアを抱きしめて呪文を唱えていた。もう少し、あと一分ほどあれば無事に転移が出来るだろう。

シャールはそれを見て安堵の息を漏らすと、再びエリオスの方を向き直り強く剣を握りしめる。


(――アメルタート、無力な私に自分の役目を果たさせて‥‥‥)


頬が固くなっていく、背筋もこわばり足は震える。呼吸は乱れるし、目の焦点は合わない。今から自分は死ぬだろう、鉄の塊を振り回しながら、あの魔術師に傷を与えることもできないで、無様に。怖い、怖い。でも、自分にはそれしかできないから。自分の価値のない命で、リリスの価値のある命が救えるのなら――

頬を無理に引き伸ばし、背筋をのばし大地を強く踏みしめる。息を深く大きく吸って、敵を強くしっかりと見据える。今から自分は死ぬだろう、だけど残せるものがあるのなら――

シャールは目を閉じて、心を固める。


「――ッ」


不意にエリオスが声を上げる。戸惑い、困惑、怒り。どれともつかない声に、シャールは目を開ける。すると、目の前に若草色の光が飛び込んで来た。

アメルタートが輝いていた。

エリオスくん初びっくり



お気に召された方は評価・ブックマーク等いただけますと幸いです。

ご感想、ご意見等ありましたら感想又はレビューまでお願いします。大事に読ませていただきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 悪役エリオスの過去が描かれるのが楽しみです 毎日更新お疲れ様です
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ