Ep.4-27
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「あはははは! いいね、いいねぇ! これは楽しい!」
哄笑が森の中に響いた。愉悦に狂ったようなエリオスの高い笑い声に、レイチェルは舌打ちをする。目の前で森の木々が、巨大な岩がエリオスの小さな拳や細い脚から繰り出される一撃でガラス細工のように折れ砕けていく。これまで、権能や魔術によって機械的な処理として戦闘をこなしてきたからだろうか。自分の身体を使った破壊行動は彼に新鮮な喜びを与えていた。エリオスは自分の振るうその圧倒的な暴力に酔ったように、その破壊を楽しんでいるようで、その顔は年相応の少年らしい爽やかさすら感じる笑顔に満ちている。
一方で傍から見れば、その有様はまさしく災害のようで、レイチェルはその攻撃をなんとか回避しながらその規格外の力への対処法を見出すべく思考を回転させる。
——最も無難な選択肢としては、彼の『嫉妬』の権能の効果時間が切れるまで耐え忍ぶことだろう。エリオスはその効果、能力の向上はあくまで「一時的なもの」と言っていた。だから、いずれその力は失われる。その隙に彼の首を獲ればいい。
しかし、その場合レイチェル自身の体力や集中力が保つかどうかが保障できない。
レイチェルは既に半刻以上もの間、エリオスとの戦闘を続けている。更に、彼女は派遣先だったレブランク王国の王都マルボルジェからこのベルカ公国辺境の森まで休むことなく行軍してきたのだ。体感出来てはいないものの、疲労はかなり溜まっているはずだ。それがエリオスの権能の効果が切れる前に表出しないとも限らない。或いは先に集中力が切れてしまうかもしれない。そうなるとこの足場の悪い、木の根や石に常に足を取られそうになる森の中での戦いを続けるのは、あまりにも分が悪すぎる。
——ならば、短期決戦しかない。
レイチェルはそう決心すると、逃げる脚を止めて踵を返してエリオスと対峙する。エリオスはそれを認めると、にやりと笑ってその場で立ち止まる。
「やっと私に殺される覚悟が決まったのかな?」
「――ああ、決めたとも」
レイチェルはそう言ってから、聖剣の柄を強く強く握りしめる。そしてその切っ先をエリオスに向けて大きく息を吸う。
「――貴殿を斃して、その咎について最高巫司様のお叱りを受けるという覚悟が、ね」
レイチェルはそう言うと、にっと笑って見せた。その顔に、エリオスは僅かに不愉快そうな表情を滲ませる。そしてかぶりを振りながら口を開く。
「——興が削がれるようなことを言ってくれるね。嗚呼、本当につまらない。その場で泣き喚いて命乞いでもしてくれれば最高だったのに」
エリオスは肩を竦めてそう言った。そんなエリオスの言葉など気に留めることもなく、レイチェルは聖剣の刀身を自分の眼前に掲げると、眼を閉じる。
「『晶析』の理を司る聖剣に願い奉る。大地に眠れる牙を私のために振るって欲しい、その顎で我が道を喰らい開いて欲しい——大権能、収束励起」
祈りの聖詞を謳い上げ、レイチェルは眼を開く。そして、目の前の悪役を真っ直ぐと見据えた。
「受けるがいい——我が信仰と忠義の結晶たる、この聖剣の権能を」