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Ep.4-21

「その力、使うほどに貴殿の心身を削っているのだろう?」


レイチェルの言葉に、エリオスはぴくりと身体を震わせる。数秒、エリオスはレイチェルを睨むように観ていたが、不意に相好を崩してくつくつと笑いだす。


「ふふ――なるほど、心身を削るか。嗚呼、確かにしっくりとくる言葉ではあるね」


「それは、肯定の意味として捉えていいのだろうか?」


レイチェルの問いかけに、エリオスは深く深く息を吸ってから大きく頷いた。

その顔色は、死にかけた病人のように青ざめていて、全身も痙攣しているかのように震えている。そんな状態でありながら、エリオスはまっすぐにレイチェルを見つめている。


「まあいいか……看破した君へのご褒美として教えてあげようじゃあないか。その通り――この権能は無尽蔵に、考えなしに使えるような代物じゃあない」


エリオスは地に手をついて、全身を震わせながら立ち上がろうとする。目眩に揺らぎながら、込み上げる吐き気を手で押さえながら。ゆらりと立ち上がる。

立ち上がったエリオスは、近くの木にもたれかかって絶え絶えに話し始める。


「私の権能——さっき君に披露した、黒い風……アレは人間の9つの罪業……そのうちの『暴食』の結晶だ……動線上に存在する、あらゆるモノを……食い散らかす獣性」


そこまで言うとエリオスは言葉を切って、その両手を自分の腹に当てて見せる。


「でも……これを使うと……副作用もあって、ね。使うと私は強い飢餓感に……襲われる……数分程度展開する、だけなら……我慢できるけど……さすがに、ここまで続くと……ね」


「つまり、貴殿は今空腹だと言うことか? 空腹なだけで、そんな——」


「ふふ……これは、味わった人間じゃないと……想像できない、だろうね……そうだな、言葉にすれば…今まさに餓死する者の飢餓感……その10倍くらいの飢餓感が、今私を蝕んでいるもの……だ」


エリオスは自分の腹部をさすりながら、乾いた笑みを溢した。そんなエリオスの言葉にレイチェルは疑念の視線を向ける。


「——10倍だと? 馬鹿な。それならば何故貴殿はまだ生きて立っている?」


「単純な話さ……人が餓死するのは飢餓感からではなく……栄養失調に陥るから。でも、私は権能を使っても身体から栄養が抜けたりはしない……ただ飢餓感が溜まるだけ……だから死なない……」


——死なないのではなく、死ねないのではないか。

レイチェルはエリオスの姿を見て、ふとそんなことを思ってしまう。

例えその身体から栄養が失われていなかったとしても、それだけの飢餓感に襲われればただでは済まない。精神は乾燥し、摩耗する。身体すら不調を来すだろう——現に今の彼の身体はそういう状態だ。


「もう一つ、貴殿について分かったことがある」


不意にレイチェルが口を開いた。そんな彼女に、エリオスは眉を顰める。今度は何を言われるのか、予想がついていないらしい。

そんな彼にレイチェルは皮肉っぽい笑みを浮かべた。


「貴殿は……弱いな」

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