Ep.4-19
「貴様のその顔――アア、忌々しい……まさしく盗人猛々しいとはこのことだ……」
ザロアスタは低くうなりながらそう言った。血走った眼がぎろりとシャールを睨みつける。しかしもはやシャールは怯まない。その目を真っすぐ睨み返してみせた。
「好きに言って頂いて構いません。でも、もう私にはこの聖剣を手放す気はありませんよ」
ザロアスタの剣を受け止めたまま、シャールはそう言って皮肉っぽい笑みを浮かべて見せた。そんなシャールの言葉にザロアスタはこめかみに青筋を立てる。
「ァァ、アア……簒奪者どもめェェ……貧相な貴様も、強欲なレブランクの王もォォ……その奇跡の真価を知ることもなく、ただ目先の欲と名誉のために聖剣を玩弄しおって……許さぬ、許さぬぞォォ……統制局長が許そうと、最高巫司様が許そうとォォ!」
その言葉にシャールはぴくりと身体を震わせる。
——そうか、違うんだ。シャールは悟った。
シャールは自分が簒奪者と呼ばれたのは、ルカントの死後にそれを自分のものとしてしまったからだと思っていた。
聖教国のことだから、所在が分かっている5本の聖剣のうち手元にないアメルタートの動向は逐一確認していて、それがルカントの死によってシャールの手元に転がり込んだことをどこかで察知していたのだと。だからこそ、ザロアスタはシャールを「簒奪者」と読んだのだと。そう思っていた。
しかし、違う。ザロアスタは、そもそもレブランク王国にアメルタートがあること自体が許せないのだ——「奇跡の真価を知ること」のない者が持っているから。
「それなら……光明はあるかも……」
ぽつりとシャールはそう呟いた。
光明——この状況を打破するための一手。シャールの脳裏には一つのシナリオが描かれつつあった。しかし、まだピースが足りない。確証が欲しい。
そのためには、この目の前のザロアスタという人物のことを理解せねばならない。
彼の怒りの根源、凄まじい殺意の源流はどこなのか。でも、きっと悠長な問答なんかに、彼はきっと応じない。それならどうするか——
「最早許さぬ……貴様はァ、この異端訴追騎士の長たる我輩自らァ、地獄を味わわせてやるぞォォ……!」
ザロアスタは剣を握る腕に力を込め、全身の体重をかけて鍔迫り合いを演じるシャールを押し潰さんとする。しかし——
「そんなの……お断りですッ!」
シャールはそんなザロアスタが力を強くかけた瞬間を狙って、僅かに剣戟を受け止めるアメルタートの角度をずらしてみせる。
すると、凄まじい力が下方向に向かって込められたザロアスタの剣は聖剣の峰を滑ってそのまま地面を叩き割る。あたりには土煙が広がった。
それと同時にシャールはザロアスタの間合いから離れ、改めて聖剣を構える。
土煙の中でザロアスタは姿勢を整えると、その剣を横に一薙ぎ。するとあたりを覆っていた土煙は切り裂かれてその威容がシャールの目にも顕になる。
相変わらず、いきりたった猪か熊のような獰猛さを見せるザロアスタ。シャールは一つ大きく息をしてから、そんな彼に聖剣の切先を向ける。
「お話、しましょうか——ザロアスタ様」
そう言ってシャールはにっと笑って見せた。
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筆者が元気になりますので。




