Ep.4-18
録り溜めてたドラマ見てたらとんでもない時間になってました。ごめんなさい……
ネメシス面白かったです。
「リリス様……」
ルカントの墓前で、シャールは読んでいた石板を強く抱きしめた。刻まれた文字の形や紡がれた言葉の端々に、リリスの想いが感じられたから。
そしてシャールは涙を流す。彼女の言葉が嬉しかったのもある。励まされたという思いもある。だが、そんな明るい感情だけじゃなくて、その中には後悔も混ざっていた。
一瞬でも、リリスの心を疑ってしまった自分自身に。彼女は本当に本心からシャールに接してくれていたというのに。無駄になるかも分からないときのために、こんな石板を残してくれるほどにシャールのことを思ってくれたというのに。
シャールは自分が自分で許せなくなる。リリスのこの優しくて気遣いに満ちた言葉を受け取る資格が自分にあるのか分からなくなる。
「でも——だとしても……」
シャールはゆらりと立ち上がる。強く強く聖剣を握りしめ、歯を食いしばる。
罪悪感はある、後ろめたさもある。気恥ずかしさもあるし、押し潰されそうなプレッシャーもある。
聖剣を手放すべきなんじゃないかという想いだってやっぱり残っていて、ルカントの墓の前に放置して逃げ出したいという衝動に負けそうにもなる。
それでもシャールは立ち上がる。その手に聖剣を杖のようにして掴んだまま。
「リリス様、私……立ってます」
シャールは呟く。遠くの空を見上げながら。背を押してくれた彼女の姿を思いながら。
「——覚悟は決まったか。小娘」
迫る足音が彼女の背後で止まり、地鳴りのような声が響いた。
見下ろすザロアスタの言葉に応えることなくシャールは聖剣を握り直し、その白金の刃を眼前に掲げる。
それを見て、ザロアスタは唸り声を上げた。
「そうか……ならば死ねィ……徒花の如く。簒奪者には似合いの最期をくれてやるわァ!」
ザロアスタは大きく剣を振り上げる。血走った目で、怒りに歪んだ顔で。
徒花——実を結ばない花、咲いてもすぐに散りゆく花。確かに自分は徒花なのかもしれない。
自分のこの決意は、実を結ぶことのない勘違いじみた空回りなのかもしれない。自分のこの命は、仇を討つという目的を成し遂げることなく、エリオスやザロアスタたちの前に儚く散り消えるモノなのかもしれない。
だが——嗚呼、だとしても。
振り下ろされるザロアスタの剣戟。もはや回避は不可能。脳天を叩き砕かんとする必滅の一撃。
しかしシャールは落ち着いて、小さく息を吸ってみる。渦巻く不安も苦しみも、森の空気が薄めてくれる。
「散逸せよォォォッ!」
ザロアスタの雄叫び。しかし、その直後に響いたのはシャールの頭蓋が砕け散る乾いた音ではなく、金属同士が激しく強くぶつかり合った音。
ザロアスタは表情を歪め、血走った獣のような目で目の前の少女を——彼が神の奇跡と奉ずる聖剣を自分のものだと宣うように強く握りしめ、自身の剣戟を受け止めたシャールを強く睨みつけた。
「貴様ァ、貴様ァァァ!」
「私は確かに徒花かもしれない——でも、だとしても! 花ひらいた私を愛でてくれる人がいて、私が咲きたいと思えるのなら……私は自分の思うまま、咲き切ってみせる!」
シャールは高くそう吠えて、微笑いながらザロアスタを睨み返してみせた。
ちょっと今回は、私の好きなアニメからのセリフの引用が随所にあったりします。
分かる方には分かる……のかな?




