Ep.4-17
色々とやることをやっていたら、ダイナミックに遅れてしまいました。申し訳ありません。
今回もちょっとだけ特殊な形式の文章に挑戦してみました。ご了承ください。
掘り出した石板は、シャールの両手で持てるくらいの比較的小さなモノだった。滑らかな表面には何やら文様か文字が刻まれているようで、いくつもの複雑な線を描いた窪みが並んでいるが、土に汚れていて読み取れない。
シャールは湿った土を手で払う。浮かび上がったのは、精緻に刻まれた文字だった。
シャールは無心でその文字列に視線を注ぐ。
「これ……」
そこに刻まれた内容にシャールは息を呑む。それが誰の手によるものか分かった瞬間、心臓を掴まれたような恐怖と驚きと不安がシャールの心を支配した。
「リリス、様——?」
§ § §
魔術師リリスより、親愛なるシャール・ホーソーンへ
まずは私の勝手な行いを謝罪させてくださいませ。
これを書いている今現在ではあくまで予定ですが、私はこれをルカント様の墓前に埋めるつもりです。二人で作ったお墓に、私が勝手に手を加えてしまうことをまずはお詫びをさせてくださいませ。
私がこの石板を残したのは他でもありません。私の背を押してくれた貴女の背を、私も押せたのなら。そんなことを思ったからですわ。
私なんかとは比べものにならないほど貴女はとても強い人ですけれど、それでも貴女は普通の女の子でもあるのですから、いつかその身に背負ったモノの重みに崩れ落ちてしまう時が来るかもしれない、今抱いている自分という像が崩れ落ちてしまうかもしれない。
お節介かもしれないけれど、私は貴女にそんな危うさを見てしまった気がしました。なので、これを残します。
貴女がルカント様の墓前に立って、墓を掘り返して、この石板の存在に気付いた――ということは、今の貴方は自分がルカント様から受け継いだ聖剣について、何か悩みを抱えてしまっているのでしょうか。もしかしたら、自分には無いのかもしれないなんて悩んでいるかもしれませんね。それともルカント様に聖剣を返そうと思っているのでしょうか。
でも、そうだとするのならば、あえて言わせていただきますわ――馬鹿なことを言わないで。断じて否である、と。
確かに貴女はただの村娘。ルカント様と比べればその血筋の高貴さも、その精神の成熟も、遥かに劣るかもしれません。
でも、貴女は誰かのために立つことが出来る人です。私を二度も救ってくれたときのように。とても優しくて強い人です――それは、ルカント様にも負けないくらい。
ルカント様がどう思われるか、彼が自分を認めていないのではないか、だから自分には聖剣を持つ資格なんてないのではないか。万一そんなことを気にしているのであれば、それはとんでもない勘違いです。
だって貴女は、ルカント様に託されたから聖剣に選ばれたのではないのですから。貴女はその高潔さと芯の強さから――つまり、貴女だから選ばれたのです。
本当に価値があるのは貴女が承継したものではなく、貴女自身なのです。
そう言っても、信じてもらえないかもしれないけれど、そんなときは貴女が私に言った言葉を思い出してみてくださいませ。
そして、今一度聖剣を手に取って、貴女を勇者の器だと信じる私のために剣を振るってくださいな。
これが貴女の背中を押して、道を行く貴女の助けになりますように。
親愛を込めて――リリスより
と、言うわけで今回はリリスからの手紙を文章に組み込んでみました。
もしかしたら後で軽く校正するかもしれませんがご了承ください。