Ep.4-11
「この薄汚い簒奪者がァ、その手で我らが神の奇跡を穢すのかァ――!」
ザロアスタはそう怒鳴ると、その剛腕で剣をシャールの脳天に向けて振り下ろした。この状態からの防御は不可能。瞬間的に、本能的にシャールが自分の死を直感して目を閉じた瞬間——
「——所有権は神聖にして不可侵なんだよ。たとえ神の遣いと驕る君たちでも、そんな神聖不可侵たる権利に手を出すのは許されないと、私は思うんだけど。どうかな?」
そんな声と共に金属が強く打ち鳴らされる高い音があたりに響いた。シャールが目を開くと、彼女の目の前には黒い影の槍が突き出され、それがザロアスタの必滅の剣戟を受け止めていた。
アリアはそんな様子を眺めながら、にやりとその場で笑ってみせる。
「——お迎えご苦労様、私の愛すべき従僕」
「全く、帰りが遅いと思ったらまた七面倒なモノを引き連れてきてくれちゃってさぁ……というか、この前も無かった? こんな展開」
飄々とした調子でそう宣うのは馬車の上に立つ黒い影——エリオスだった。
エリオスは冷たい瞳でザロアスタたちを見下ろし、辺りに視線を走らせると、大きくため息をついた。
「アヴェスト聖教——か。お早いご登場で」
「その反応から見るに、貴殿がエリオス・カルヴェリウスか」
レイチェルはエリオスを見上げながらそう言った。そんな彼女の言葉にエリオスは嫣然とした笑みを浮かべながら、馬車の屋根から飛び降りる。
そして、レイチェルからも影の槍で止められているザロアスタからも見える位置で恭しく慇懃無礼なお辞儀を極める。
「その通り——初めまして、アヴェスト聖教国の御歴々。私の名はエリオス・カルヴェリウス。あえて自己紹介するならば、稀代の悪役たる一魔術師、とでも言っておこう」
「そうか。名乗られたのならば応えよう——私はレイチェル・レオンハルト。聖教国神殿騎士団長にして、最高巫司様の一の従僕——彼の御方の命により貴殿に同道願う」
エリオスを前にしてなお、レイチェルは声音を変えることなくそう告げた。真面目くさった彼女の顔と言葉に、エリオスは思わず吹き出す。
対する彼女は、なぜエリオスが笑っているのか理解できずに少しだけ不機嫌そうに眉をぴくりと動かす。
「——何が可笑しいのです」
「いやぁ、だって『同道願う』だなんて……回りくどい言い方しちゃってさ……くく……あははは——素直にはっきり言えばいいじゃないか。私を『捕らえる』ってさ」
エリオスはそう言ってレイチェルを嗤う。その瞬間、シャールの背筋に緊張が走った。つい先頃にも、エリオスを捕らえようとした人がいた。そんな彼がどんな末路を辿ったのか、彼の守るべきモノがどんな終焉を迎えたのか——知っているからこそ、シャールは戦慄した。
そんな彼女の不安を追認するように、エリオスは宣う。
「——嗚呼、君も私から尊厳と自由を奪おうというのか……なら、君も奪われる覚悟はできているね?」




