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Ep.4-10

「あは——あはは、きゃははははは!」


レイチェルの言葉の後に広がった沈黙の支配、それを破ったのはガラス玉の転がるようなアリアの笑い声だった。

彼女は笑っていた。腹を抱えて、気持ちよさそうに。その哄笑に、ザロアスタもレイチェルも眉を顰める。


「何が、おかしいのです?」


「く、ふふ……まさか、この私に『神命』だなんてねぇ……くふふ。嗚呼、可笑しいったらありゃしないわ」


「だから何が——」


「それをアンタに答える必要もないし、教えたところで理解できないわ。私、無駄と分かりきってることはしない主義なの」


そう言ってアリアは踵を返して、レイチェルとザロアスタに背を向ける。馬車に乗り込もうとするアリアをレイチェルは冷たく睨みながら、非難の言葉を投げる。


「待ちなさい。貴女、自分が何を言っているのか分かって——」


「アンタこそ、少し分を弁えなさい」


アリアの言葉と視線がその場の空気を凍てつかせた。その華奢な体躯と可憐な相貌からは想像もできないほどの威圧感が彼女の全身から放たれる。まるで、目の前の少女の姿をした彼女は虚像で、本当は自分たちはとてつもなく大きなモノの前に立っているのではないかという錯覚すら感じる。

シャールはそんな彼女の言葉の圧に、その矛先が自分には向けられていないにも関わらず、思わず身震いした。

ザロアスタも緊張に表情を僅かに強ばらせ、腰の剣に手をかけている。レイチェルもまた、唇を噛んで剣の鞘に手を当てながらじっとアリアを見つめていた。

そんな彼らの姿に、アリアは嫣然と微笑むと硬直したシャールに告げる。


「——行くわよシャール。あんまり遅くなると、アイツ拗ねるから」


「え、あ——はい……」


アリアの言葉のまま、シャールは彼女の後に続いて馬車に乗ろうと踵を返す。そんな二人を見て、レイチェルはかぶりを振った。


「致し方ありません――彼女たちを拘束しなさい」


レイチェルは眉一つ動かすことなく冷然と配下の白騎士たちに命じる。その瞬間、四人の騎士たちが飛び出して二人を取り囲む。


「――大人しくしてもらおう」


「お断りするわ」


騎士の勧告にアリアは視線をくれてやることもなく、冷たく言い捨てた。それを聞いた瞬間、一人の騎士がアリアの長い髪を一房握り閉めて引っ張った。


「――痛ッ!」


アリアの青い髪を掴んだのは、鼻から血を流した騎士――先ほどアリアに足蹴にされた騎士だった。騎士はそのままアリアを地面に引き倒そうとさらに力を入れて髪を引っ張る。痛みに表情を歪めるアリアの顔を見て、騎士は嗜虐の喜びに目覚めたかのような表情でわずかに笑いながら怒鳴る。


「良いから降りろよォ!」


「――ッ! アリアさんから手を放して!」


シャールはとっさに腰に佩びた聖剣アメルタートを抜き、その刀身で殴りつけるように騎士の腹に思い切り叩きつけた。その勢いに髪を掴んだ騎士は思い切り吹き飛ばされ、再び地面に転がる。

そんな彼を見ながら、ザロアスタは髭を撫でる。


「おうおう、神殿騎士ともあろうものが何たることか。華奢な少女に吹き飛ばされるなど……そもそも、乙女の髪を掴むなど神の使徒の末席を穢す身として――む?」


呆れたような声を漏らし、吹き飛ばされた騎士に説教を垂れていたザロアスタが不意にその言葉を止めた。その目はまっすぐにシャールを――もっと言えばその手に握られた聖剣を見ていた。


「それは――聖剣か……おお、なんということか……オオ、オオオォォォ……!」


「――ザロアスタ卿?」


獣のような唸り声をあげるザロアスタをちらと見て、アリアもシャールも、騎士たちも。そして隣にいるレイチェルさえもその表情を凍り付かせる。全身を震わせるザロアスタは、腰の剣に手を掛けて、大地を踏みしめて一歩一歩と近づいてくる。

そして次の瞬間、彼の姿は消失した。辺りを見渡すシャール。そんな彼女の背後から重苦しい声が響いた。


「――貴様ァ……」


「――ッ!?」


「何故、貴様のごとき小娘がァ。神の奇跡を手にしている……この薄汚い簒奪者がァ、その手で我らが神の奇跡を穢すのかァ――!」


シャールは振り返る。その視線の先には、先ほどとは打って変わって殺意をむき出しにし、先ほどとは比較にならないほどに恐ろしい表情を浮かべるザロアスタが剣を今まさにシャールの脳天に振り下ろさんとしていた。

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