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大罪踏破のピカレスク~人間に絶望したので、女神から授かった能力で誰よりも悪役らしく生きていきます  作者: 鎖比羅千里
Episode.1 The fate of people who Enter into the palace of Villain...
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Ep.1-14

諸事情により、再投稿いたしました。

ご迷惑をおかけした方は申し訳ありません。

今後とも拙作にお付き合いいただけますと、幸いです。

エリオスの足元から伸び出た影は、鎌首もたげた蛇のように実体化して、大理石の床の上に転がったソレを抓むと、ぬるりと音もなく主人の下へと持ってくる。


「――まず一人。いや、二人目? まあいいか。お次は?」


エリオスはあくびを噛み殺しながら、自身の影が抓むもの――たった今胴体から分かたれたアグナッツォの首を眺めてそう言い放った。気だるげに目の前につるされたアグナッツォの首を黒い皮手袋をはめた指で無遠慮に弄繰り回すが、数瞬後には飽きたように空をなぞるようにしてその指を払う。

その瞬間、アグナッツォの首は放物線を描いて部屋の隅へと飛んでいく。


「――ひ」


目の前に落ちた首に、シャールは思わず悲鳴を漏らす。目の前で人が二人も死んだ――それも先ほどまで自分と言葉を交わしていた人が、短い期間ながらに寝食を共にした人が目の前で立て続けに。そしてその死の証が目の前に叩き付けられる。高所から勢いよく叩き付けられたからか、アグナッツォの首は頭蓋が砕け、その脳漿が床に飛び散っている。


「――ああ、また床を汚してしまった‥‥‥絶対怒られるよコレ」


小さく舌打ちをしてぼやきながら、エリオスはそれを一瞥したかと思うと、床に伏した首のないアグナッツォの身体に片足を乗せて再びリリスとミリアの方を振り返る。


「殺すんだろう? どうしたんだい勇者御一行―――悪役はまだ生きているよ?」


くつくつと嗤うエリオスを前に立ち尽くすリリス――切り札も、最愛の人も失った女魔術師は絶望した表情で震え、その場に崩れ落ちる。そんな彼女の前に一歩進み出る影。


「――立ちなさい、リリス。そこにへたり込んで、ルカント様の死を無駄にするの? アグナッツォの勇敢を無駄にするの?」


「で、でも‥‥‥私、もう‥‥‥」


万策尽きた。彼女の手のうちにはもはやエリオスに抵抗する術は残っていない。もはや、勝ちの目など無い。リリスからしてみれば、この状況にあってなお、気丈にも立っているミリアの方が異常に映る。

そんな彼女にミリアは振り返って小さく微笑んだ。


「逃げなさい。そして、この魔術師の脅威を外に伝えるの」


「なに、言って‥‥‥」


「ベタなセリフを言わせないでよ‥‥‥ここは私に任せて、ね」


ミリアはそう言って、槍を構える。そして、ちらとシャールの方を見る。

その瞬間、シャールは自分に託された役割を知った――怖い、怖いけれど、役に立たなければ。たとえ死んだとしても、役割を全うする。自分の価値は、そうやってしか示せないから。

シャールは口元を強く袖でぬぐうと、立ち上がる。そして、駆け出した。


「リリス様、ごめんなさい!」


シャールはへたり込んだリリスを立ち上がらせると、足元に転がったルカントの聖剣を引っ付かむと同時に、彼女の手を強く引いて玉座の間から駆け出ていく。


「え――ちょ、アナタ。待って、ミリアが――」


リリスはシャールに手を引かれながら、玉座の間を振り返る。遠くなっていく、ミリアの姿。

――嫌だ、こんなお別れは。ルカントを巡って、ぶつかってばかりだったけれど、「辺境の魔女」なんて言われて一人だった自分の、最初の友達になれたかもしれないのに。まだ何も、ろくに言葉を交わせていないのに。


リリスとシャールを見送ると、ミリアはゆるりとエリオスの方を振り返る。


「待っててくれたのね、どういうつもりなのかしら」


「別に、あの状況で手を出したら無粋じゃないか。そういう無粋は、悪役(ヴィラン)っぽくない」


苦笑を漏らしながら、エリオスはそう宣った。本当に理解できない。そう思いながらも、今この瞬間だけ、ミリアは彼のポリシーに感謝した。


「どういうつもり、というのなら私からすれば君の方が分からない。なぜ、彼女たちを逃がした? なぜ勝ち目のない戦いに挑む?」


「決まってるわ。私は貴族、それも宰相の娘――なら、貴族の務め(ノブレスオブリージュ)を果たすのは当然でしょう? なにより、とっても粋じゃない」


ミリアはそういってにやりと笑って見せた。そんな彼女の言葉に、エリオスはいっとう驚いた表情を浮かべた。ミリアには、それが初めて彼が見せた素の表情に見えた。


「なるほど。では、君のそのポリシーに敬意を払って、君が十分にその粋を果たせるようにしてやるさ――でも」


エリオスはそこで言葉を切って、ひどく歪んだ笑みを浮かべた。嗜虐の喜びを心底味わおうとする笑顔だった。


「楽には死ねないよ?」

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