Ep.4-9
投稿遅れました……寝落ちしてました……
その場に緊張が走る。白い鎧をまとった他の騎士たちも、愉悦に満ちた凶相を浮かべるザロアスタに、恐怖と戦慄の表情を向けている。そんな中、ただ一人神殿騎士団長たるレイチェルだけは泰然とそこに立ったままだった。
剣を掴み、肉食獣のような吐息を漏らすザロアスタが、一歩前に進み出ようとした瞬間、ようやくレイチェルは口を開いた。
「――ザロアスタ卿、お待ちを」
「何ィ? 何故止めるのですかな、レイチェル卿。彼女らは民草の敵であろう、彼女らは神敵の輩であろう。ならばこの場でその首を刎ねるが我らアヴェストの善なる神々の信徒たる者の務めではないか?」
血走った眼でレイチェルを睨みつけるザロアスタ。言葉だけは慇懃だが、その裏に渦巻く殺意と執着の念はすさまじい。きっとシャールがあの目で睨みつけられたのなら、その場にへたり込んでしまうだろう。しかし、レイチェルはそんなザロアスタの眼力に屈することもなく泰然と言い放つ。
「我々が最高巫司様から仰せつかったのは、あくまで騒乱の元凶たるものを検分することであって、その討伐までは指示されていない。無論、我らの脅威となる存在であれば排除することはやぶさかではないが――」
「そうではないなら、手は出すな——と?」
ぎろりとザロアスタの視線がレイチェルを射抜く。その痛いほどの眼光に、レイチェルは澄ました顔で対峙していた。数瞬の沈黙と静寂、固まった両者の時間。それを先に動かし破ったのは、ザロアスタの方であった。
「ふむ。ならば仕方ないな」
「え?」
あまりにあっさりと引き下がったザロアスタに、思わずシャールの口から間の抜けた声がまろび出る。アリアも声は出さないまでも、呆れたように開いた口が塞がっていなかった。
そんな二人を他所に、ザロアスタは地面に突き立てた剣を抜き、鞘へと収めながらうんうんと頷く」
「——納得いかぬところもあるが、それは我輩が如き愚者の思考ゆえのことであろう。神の代弁者たる最高巫司様の御言葉であるのなら、我輩は粛々と従うまで」
一切の迷いも躊躇いもなく、数瞬前まで燃えたぎっていた感情の炎を一瞬で鎮火させるその姿は「切り替えが早い」なんて言葉では片付けられなくて、シャールはそんな彼の在り方に狂気とか異常性というような空恐ろしいものを感じていた。
そんなザロアスタに、レイチェルは僅かに頭を下げる。
「ご理解感謝する。ザロアスタ卿——さて」
そこで言葉を切って、レイチェルはじっとシャールとアリアを見つめる。その瞳の輝きはまるで占い師の水晶球のように思えた。
数秒、シャールとアリアを吟味するように視線を走らせた後、レイチェルは静かに口を開く。
「貴女たちはエリオス・カルヴェリウスなる人物をご存知のようだ。案内していただこう——これは、神命であるとお心得いただきたい」
凛然とした声で、レイチェルは冷たく、重くそう言い放った。