Ep.4-6
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「最高巫司の勅令旗――」
騎士たちの一団が高く掲げた旗を見て、シャールは戦慄する。紫紺の天鵞絨に金色の刺繍が施されている。施された装飾は、アヴェスト聖教会のシンボルである半人半鳥という天の御使の絵姿。
荘厳さすら漂わせるその旗は、紛うことなくアヴェスト聖教最高巫司の勅令旗——それを掲げるものが最高権威者たる最高巫司による直接の命令を受け、「神の代理人」として活動していることを示すものだ。
「ということは、あの人が——アヴェスト聖教国の神殿騎士団長」
シャールは馬車の窓越しに一団の先頭に立つ騎士の姿を見つめる。豊かな白金色の髪を靡かせながら、鋭い瞳で真っ直ぐにこちらを見つめる鎧に身を包んだ美女。白い鎧と青いマントに身を包んだ清廉にして精錬たる騎士。
その威容にシャールはその場で立ちすくんだ。アリアもまた先程までの飄々とした表情は消え去り、唇を引き結んで、緊張の面持ちを向けている。
「館まであと少しってところで……」
アリアは忌々しげに騎士たちを睨みつけながらそう言った。それとほとんど同時に、神殿騎士団長と思しき女騎士が右手を上げた。
それと同時に彼女の後方に控えた騎士たちが4人、馬を降りて馬車に駆け寄ってくる。次の瞬間、馬車の扉が強く叩かれる。
「——降りられよ」
低く重々しい声で騎士の一人が扉の外からそう言った。シャールとアリアは目を見合わせる。彼らがどんな意図でこの馬車をつけてきたのか、なぜシャールたちに降りるように求めているのか——何も分からないが、このまま馬車に立てこもっても意味がないことは二人にも分かっていた。
それでも僅かに躊躇いを見せるシャールを背に、アリアは馬車の扉に手を伸ばした。
アリアが扉を開けると、そこには四人の騎士たちが剣を抜いて、その切先をこちらに向けて待ち構えていた。
「抵抗することなく降りられよ。さもなくば——」
「ねぇ、アンタたち」
騎士の言葉をアリアの高い声が遮った。それは白刃のように鋭く冷たい声。その言葉に騎士たちはアリアの顔を凝視する。
そんな騎士の一人の顔面が、次の瞬間思い切り蹴り付けられる。アリアの高いヒールが、騎士の鼻っ柱に直撃したのだ。
騎士は思わぬ一撃にひっくり返って倒れる。周りの騎士たちはそれを呆気に取られてただ見ていたが、次の瞬間今目の前で起きたことの意味を理解して、その剣をアリアの首筋へと向ける。
そんな状況にありながら、アリアは泰然と騎士たちを見下ろしながら口を開く。
「——あのさぁ、アンタたち不躾なんじゃないかしら?」
その言葉に、騎士たちもそして彼女の背後で立ちすくんでいたシャールさえも絶句する。「不躾」? いきなり騎士の顔面をヒールで踏み潰すような女にだけは言われたくない言葉だろう。
アリアは自分の蛮行を棚に上げたまま——あるいは、本当になんとも思っていないのかもしれないが——嘲笑と苛立ちが混じり合ったような表情で、騎士たちを見下しながら言った。
「アンタたち、誰の許しを得て私を見上げてるわけ? この駄犬風情が」