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Ep.4-5

唇を噛みながら全身を震わせるシャールを見て、アリアは複雑な笑みを浮かべた。嗜虐的な喜びの中に、どこか憐れみにも似た感情が一滴紛れ込んでいるような、そんな表情だった。


「――ま、それはさておき。アンタがどうしてアヴェスト聖教を敵に回すべきじゃないって言ったのかは理解できたわ」


ついと窓の外に視線を投げて、アリアはそう言った。それは、シャールの言葉に理解を示すことで彼女の意思をある程度汲もうという、アリアなりの気遣いの表れのようにも思えた。少しきまり悪そうに頬を染めながらアリアは続ける。


「『世界を敵に回すのと同じ』――村娘の割にしゃれたことを言ったものね。アヴェスト聖教を敵に回すのはその信者たる世界の人類を敵に回すこと。そして、世界そのものたる神の権能を受けた聖剣の半分以上を敵に回すってことでもあるってことね」


そう言ってアリアはふふんと笑いながら、シャールを見てうんうんと頷く。正直なところ、シャールとしてはそんなダブルミーニングを狙っていたわけではないのだが、結果としてそれらしい解釈に落ち着き、自分の伝えたいことも伝わったので、あえて何かを言い添えるでもなく、こくんと頷いた。


「ま、死蔵された聖剣を敵に回したところでどうってこともないでしょうけど。何より、聖剣使いならもうアイツは一人瞬殺してるんだし」


アリアは悪気なさげにそう言い放つ。そんな彼女の言葉に、シャールの表情は再び曇った。しかし、いつまでも感傷を引きずるわけにもいかないのだと自分に言い聞かせて、シャールは首を横にぶんぶんと音が鳴るほどに振った。


「確かにあの人は、ルカント様を倒しました。でも、アレはルカント様の不意を突いたからこその勝利だったかもしれません。例えば、あの人の権能(チカラ)の存在を知っている者が相手だったとしたら……」


「――ふふ」


シャールの忠告をアリアは鼻で笑って見せる。その表情は虚勢を張っているでも、油断をしきっているでもなく、ただただエリオスの力を正しく評価し、そのうえで信頼しているのだというような自信の笑みだった。


「アイツは負けないわよ。ええ、善を謳う神々に身も魂も委ねるような連中に、アイツが倒せるもんですか」


アリアはそう言って誇らしげに、それでいて花の咲くように無邪気な笑みで笑った。そんな彼女の表情と言葉にシャールは複雑そうな笑みを浮かべた。「善を謳う神々に身も魂も委ねるような連中」――そんな彼女の言葉が妙に頭の中に引っ掛かっていた。

シャールはそんな彼女の言葉を引き継ぐように、作り笑いを浮かべる。


「尤も、アヴェスト聖教の騎士様たちがそんなすぐに館を見つけられるとも思いませんけど……」


「――ねえ、シャール」


不意に馬車の中にアリアの冷たい声が響いた。先ほどエリオスのことを誇らしげに語っていた姿とは打って変わった、警戒心を張り詰めさせたような表情にシャールは身体をびくんと震わせる。何か機嫌を損ねたのだろうか。そんな不安がシャールの脳裏を過ったのと同時に、馬車がゆっくりと停止する。


「あの……どうしたんですか」


不安げに問いかけるシャールをちらと一瞥してから、アリアは馬車の後部の窓を指さした。


「ねえ、シャール。あの旗何かしら」


その言葉にシャールは振り返り窓の外に視線を向ける。シャールの目には、白馬に乗った十数人の鎧姿の騎士の姿と彼らの掲げる豪奢な天鵞絨の旗が見えた。

旗には巨大な翼を広げた半人半鳥のモチーフが刺繍されている。それを見てシャールは唇を震わせながら、言った。


「――最高巫司の、勅令旗……!」

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