Ep.4-4
もう少し説明パートが続きます
「へえ、あそこ四本も聖剣持ってたんだ――聖剣の半分は彼らの手中ってわけ。確かにそれは、『最強』かもね」
聖剣――それは、単に神聖な力や由来を帯びたもの、あるいは過去の英雄たちの遺物を指す言葉ではない。この世界において真実「聖剣」と呼ばれるのはただ七振りのみ。アヴェスト聖教における神話世界の神々によってその権能の一端を具現化したモノとして生み出された剣のみを指す。
現在その所在が分かっているのは五振り。
大陸の覇者たるレブランク王国が保有していた聖剣アメルタート以外は全てアヴェスト神話群の神秘を管理する聖教国において管理されているらしい。
「尤も、聖剣のうちまともに運用されているのは現在は四本中一振りのみだと聞きます」
「――あら、そうなの」
アリアは意外そうに眉をピクリと上げる。確かに、シャールもその運用の実情についてはかつて疑問を抱いていた。しかし今ならシャールにもその理由がわかる。
聖剣は所有者を選ぶのだ――ゆえに、聖剣に適合できる者が現れない可能性もあるし、たとえ現れたとしても、その人物が前線で戦える立場にいるとも限らないのだ。
「アヴェスト聖教国にある聖剣については、ルカント様たちが話していたのを聞いたことがあります」
曰く、アヴェスト聖教国においては四本の聖剣の所有権者が伝統的な不文律で定められているのだという。
曰く、法と正義を司ると言われる聖剣マナフは、当代の最高巫司が所有者として定められている。
曰く、大地の権能を司ると言われる聖剣アールマティは、『教皇』たる聖教会の統制局長が歴代受け継いでいる。
曰く、聖剣シャスールは鉱物の権能を司ると言われており、これに認められたものが最高巫司の最側近たる神殿聖騎士団の長に就任することになっている。
——そして最後の聖剣、清浄なる炎を司るヴァイストは、記録上一度も所有者を選んだことが無く、神殿の最深部、聖遺物管理局所管の『墓所』に封印されているのだという。
「なるほどね、教会の権威の源泉たる最高巫司や権力者たる統制局長は戒律上所有権者でありながら、前線に出ることができないから、マナフとアールマティは使えない。所有者を選ばないヴァイストは論外——か」
シャールの説明をアリアは自分なりに噛み砕いてみせると、皮肉っぽく小馬鹿にするように笑った。
「結果として、聖剣をまともに使えるのは神殿騎士団長くらいってことね——あはは。ホント人間って非効率な伝統にばっかり囚われて、無駄なことばっかりするのねぇ。ホント、馬鹿ばかり——そう思わない、シャール?」
その言葉は若干シャールにとっても素直に受け入れ難いものだった。
しかし、その指摘は間違っていない。
実際、マナフ、アールマティ、ヴァイストの三振りの聖剣は有史以来実戦で使用されたという記録が残っていない。
特に統制局長が歴代受け継いでいるアールマティの所有権については、戒律や教典、神話群や最高巫司の託宣による根拠づけが為されていないとかねてより神学者たちに批判されて来ており、その議論が盛り上がるたびに当時の統制局長が異端審問権によって弾圧して来たという歴史があるのだという。
ルカントなどはそんな歴史を踏まえてか、統制局長の聖剣を「遺物の無駄遣い」とまでこき下ろしていたのだ。
そんな経緯を知っているからこそ、シャールは何も言い返せない。
エリオスと同じような表情で、「人間の愚かさ」を謳い上げ、嘲るアリアの前でシャールは唇を噛んだ。
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