Ep.4-1
寝落ちした挙句、執筆中だったデータが吹き飛んで絶望してました。
投稿遅れて申し訳ありません。
女魔術師リリスが館を出てから数日経ったある日のこと。
エリオスの館を囲む森林に程近いベルカ公国の辺境都市・ウェリウス——その中央通りを、シャールとアリアは歩いていた。シャールの両手にはいっぱいの荷物。対するアリアは小さなバスケットを右手に下げているだけ。側から見ればわがままお嬢様と使用人の少女が買い物をしているようにでも見えるのかもしれない。
そんな圧倒的格差があるにもかかわらず、シャールはそんな扱いに不満を感じるような素振りは微塵も見せることなく、アリアの方も特に不自然さなくそうあるのが当然であるかのように振る舞う。
「——荷物、多いですね」
「そう? まあ、買い物は月一だしね。それなりに買い込んでおかないと。何度も来るのは面倒だし」
そんな他愛もない話をしながら、シャールとアリアは街の外へと向かっていた。
街の入り口から少し離れたところに停めた馬車に荷物を置くためだった。そんなときふいに耳に飛び込んできた言葉に、シャールは足を止める。
「レブランクの王都にアヴェスト聖教国の聖騎士団が入ったらしいな」
「ああ、最高巫司の最側近、聖騎士レイチェル・レオンハルトだろ。確か、聖教国に4本あると言われてる聖剣の使い手の一人って噂の」
レブランク、そして聖剣。この二つの言葉がシャールの脳裏に引っかかった。シャールはその場に立ち止まって、じっと声が聞こえて来た方を凝視する。
話をしていたのは、街の広場で盤上遊戯に勤しむ二人の男だった。
彼らはシャールの視線になど気付かぬまま、盤上遊戯の駒を動かしつつ話を続ける。
「——レブランクの王都は今どうなってるんだろうなァ。王都じゃ王族や貴族が死んで暴動が起きて、辺境じゃ、権力を狙った地方貴族たちの内乱状態——挙句周りの国々が同盟を結んで攻め込んだって話だが」
「なんだ、知らねェのか。そいつらみんなまとめて、アヴェスト聖教国の騎士たちが出した停戦勧告に従わされたらしいぜ。連合国なんかは尻尾巻いて逃げ帰るみたいにしてきたらしい」
「随分と弱腰じゃねぇか、連合国の奴ら。聖騎士団なんて、せいぜいが百人ちょっとだろう?」
「馬鹿。聖騎士レイチェルとその聖剣シャスラルといえば、単身で小国一つ落とせるって噂だぜ。しかも、奴ら最高巫司の勅命旗まで掲げてたってんだからな。逆らえる奴なんているものか」
「ふうん、そういうもんかい。ああ、そう言えばなんだが——」
次第に男たちの会話は、全く別の話題へと移り変わっていった。それでも、シャールはしばらくの間ぼうっと立ち尽くしていた。
そんな彼女の脇腹に鈍い痛みが走る。シャールがちらと視線を動かすと、すぐ横にアリアが唇を尖らせて立っていた。
「——この私に重い荷物を持たせた挙句立ちんぼの待ちぼうけ食らわせるだなんていい度胸ね、シャール」
そう言って挑発するようなため息をついたアリアに、シャールは小さく頭を下げる。
「ごめんなさい——ただ、少し気になる話が聞こえてきたので」
祖国レブランクの末路と自分の知らないアメルタート以外の聖剣の話。そして、その両方に関わってくるアヴェスト聖教会のこと。その三点はシャールの関心を大いに引いていた。
アリアはそんな彼女の言葉に「ふぅん」とだけ言って再び歩き出した。二人の男にもう少しだけ話を書きたい気持ちもあったが、シャールはゆるゆると首を横に振って、アリアの後を追いかけた。